波乱の予兆
第54話 8月14日(土)みんなで持ち寄ってジンギスカンだあ!①
摩周から帰ってきた僕を待ち構えていたもの・・・それは宿題の山だ。
夏休みが始まって最初の週末に高校生クイズキング選手権があった。その最終ステージで逆転負けを喫した僕はその後の1週間は何もやる気が起きなかった。しかもその後の1週間は摩周へ行っていた。つまり、夏休みの宿題に全然手を付けてなかった。
摩周から帰った僕は宿題に手を付け始めたたけど、何となく乗り気にならなくて亀さん並みの速度でしか進められず、結局、姉さんに叱責される形で宿題をやり始め昨日になって終わらせたような感じだ。美紀も僕と同じような状況だったから姉さんに結構キツイ事を言われて渋々だけど終わらせたようだ。まあ、美紀の場合は単に遊び歩いていただけだから僕と全然違うけど、宿題が手付かずだったのは同じだ。
そんな訳で今日からは宿題という枷が外れて夏休みを満喫するぞー!・・・と言いたいけど、もう残すところ今日を含めて3日しかないんだよなあ、とほほ。
しかも・・・なぜか今日は朝から忙しい。
「猛、早くしなさいよ!」
「そうだそうだ、男のくせにだらしないぞ!」
「そんな事を言われても、ぜーんぶ僕がやってるのと同じじゃあないですかあ!少しは姉さんも美紀も手伝って下さいよお」
「きゃーっか!あたしは別の事をやってるから、こっちは猛がやれ!」
「右に同じ。私だって母さんに頼まれた事を朝からやってるんだからさあ。逆に猛にやって欲しいくらいです」
「美紀はともかく、姉さんがやるのはお皿を出す事とお握りを型枠に入れて作る事だけじゃあないですかあ!僕には料理の仕込みを全部やらせておいて、しかもこの後の火起こしまでやらせるなんて、いくら何でも差がありすぎですよお」
「文句を言うなー!折角のスポンサーの御厚意なんだから、それは甘んじて受けろ」
「そうよ、しかも御指名よね。頑張りなさい」
「勘弁してよー」
そう、今日は我が家の駐車場を使ってジンギスカンをやる事になっているのだ。もちろん、火を使うから大人がいないとマズいという事で母さんもいる。でも、大人は母さんだけだ。
そのスポンサーというのが・・・実はクリス先輩と実姫先輩なのだ。
話は一昨日まで遡る。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
僕と美紀は客間に出した座卓の上で宿題をやっていた。正確には「やらされていた」に等しいかも。美紀があまりにも宿題に手を付けないので朝ご飯を食べた後から姉さんが半ばキレ気味に宿題をやらせていて、何故か僕にも「たけしー!あんたも残った宿題を持ってきなさい!」とか言い出したから、仕方なく僕も残った宿題を全部客間へ持ち込んで美紀と向い合せに座って宿題をやり始めた。
「猛、あんたの残った宿題はそれだけ?」
「うん。でもこれ以外に読書感想文がある」
「それでも半分は終わらせてあったんだあ。それなら読書感想文以外は今日中に終わるわよね」
「えー!今日は太一と・・・」
「いい加減にしなさい!」
「はーー・・・じゃあこの場で太一に電話してもいい?」
「駄目!私が電話するからスマホを渡しなさい」
「・・・分かった」
そんな訳で僕は姉さんにスマホを差し出したけど、姉さんは電話が終わった後も僕にスマホを返してくれなかった。
美紀はというと・・・おいおい、ここに積んであるのは夏休みのテキスト全部だよなあ。まさかと思うけど・・・
「あのさあ、美紀。もしかしてこれ全部やってなかったのか?」
「はあ?あたしがそんなヘマをやらかしたと思うか?」
「うん」
「おい、いい加減にしろ!あたしだって紛いなりにも頑張って半分はやってあったんだぞ!」
「じゃあ、僕と同じ程度か」
「そういう事だ!へへーんだ」
「美紀ちゃん、『紛いなりにも頑張って』とか言ってるけど、数学なんかハッキリ言わせてもらうけど間違いだらけよねえ。それで終わらせたつもりなの?」
「うっ・・・すみません」
「あとで間違いだらけのテキストを差し戻されて『やり直せ』って言われるのがオチよ。兄さんが1年生の時には松岡先生が学年の男女、クラス関係なく10人くらい集めて松岡先生直々に放課後『特別教室』なるものを開いてみっちりやらせたって聞いたわよ。このままだと美紀ちゃんは『特別教室』行き間違いなしね」
「マジかよ!?松岡先生ってそんなに厳しかったのか?」
「厳しいというより熱血よね。『そんな事では2学期から授業についていけなくなるぞ』とか言って個人的につきっきりで教えた子もいたそうよ。でも決してスパルタ式に教え込むんじゃあなくて生徒個人のやる気を起こさせるのが
「美紀も松岡先生の熱血指導を受ければドン尻からの大逆転があるかもね」
「あたしは・・・底辺のちょっと上あたりでいい。さすがに後ろに誰もいないと寂しいし・・・」
「だったら毎日ゲーム三昧の生活を改めなさいよ」
「はあい」
「無駄口はここまで。さっさとやり直しなさい。猛もどんどんやりなさい」
「そういう姉さんはどうなの?」
「私は摩周へ行く前に全部終わらせてますから」
「マジかよ」
「ヒュー、さすが主席入学者は違うねえ」
「美紀ちゃん、おだてても何も出ないわよ」
「はいはい」
とまあ、こんなやり取りがあって僕は一人で、美紀はほとんど姉さんがマンツーマンで指導しながら宿題をやっていた。
今日は母さんが仕事なのでお昼ご飯は朝の残り物と食パンで軽く済ませ、午後も宿題を続けた。
そして・・・問題の出来事は起こった。
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