概要
クー・フーリンというサイバーセキュリティ製品をあつかうショウは、かつて同僚だったサクを探していた。サクは優秀な開発エンジニアだったが、彼の失踪により会社は解散し、残された仲間も違う道へ進んでいた。
ある日、ショウは知人に紹介された仕事を進める中、仮面に義手と義足という異様な姿の女性からサクの情報を得た。
廃屋に住む闇医者、落ちぶれたかつての上司、新型の拳銃をあつかう非合法員、さまざまな仲間に支えられ、ショウはサクに再会する。しかし、彼は――
「サイバーセキュリティの技術者が取る道は2つある。その力を世界の秩序に使うホワイトハットか、世界に混乱をもたらすブラックハットか」
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!SFではない、起こり得る危機を描いた珠玉のサイバークライムサスペンス
サーバーセキュリティを題材に、『既存の技術のみであっても、一人の悪意ある人間によって引き起こすことができるであろう惨事』を描いた、息もつかせぬ怒涛の展開が押し寄せてくるクライムサスペンス小説です。
更にテーマはそれだけでなく、腕はあるのに淪落の淵に沈んでいた主人公が、大災害に見舞われた東京を新型バイクで疾走するという――そういうのが好きな人にはたまらない、骨太なハードボイルド要素も組み込まれている、非常にボリュームと満足感に溢れた内容でした。
作者さんの経験と知識と取材に裏打ちされた、緻密かつ精確な描写は、他の技術者の方々が読んでも文句が出てくることはないでしょう。
それでいて、専門知識の…続きを読む - ★★★ Excellent!!!サイバー犯罪の最先端がここにある!
ITセキュリティを得意とするエンジニア、進藤将馬。以前勤めていた会社は潰れ、フリーとして活動中だった彼に元同僚から仕事の依頼が持ち込まれる。その仕事の内容は、将馬が持つ特別なセキュリティソフト『クー・フーリン』を売ってほしいというものだった。ソフトの販売権は彼にあるが、製作者である友人の木更津は『僕は殺される』というメッセージを残し一年前に行方不明となったまま……。そんな中、朔の手掛かりを知る謎の女性が将馬の前に姿を見せ……。
サイバーパンクという言葉が誕生したのは1980年代中盤。それから約35年が経った現在、多くの人々が当たり前に大容量の携帯端末を持ち、街中にwi-fiの電波が飛び交い…続きを読む - ★★★ Excellent!!!迫力のサイバーセキュリティ小説
読み始めると、いきなり東京が大惨事! 序盤から引き込まれます。
サイバーセキュリティというと、せいぜいが情報流出ぐらいだと思いがち。
しかし、すでに世の中は多くの物事がコンピューター制御されていて、それを悪用すれば人命を奪うことも可能。本作はそういった事実を改めて突き付けてくる。
作者さまは実際に業界の人らしく、用語・描写は細かく本格的。
しかし、読者の側には知識がなくても大丈夫。
「何がどうすごいのか」は分からなくても、「何となくすごい」とは分かる。
これは高い筆力があるからこそでしょう。
そして、個人的に推したいのがタイトルセンスの良さ
『その色の帽子を取れ』
カタカナも入ってないし…続きを読む - ★★★ Excellent!!!それはまるでパンドラによって暴かれたピトスの如く
「一人の悪意を持ったハッカーによりネットワークが牛耳られ、世界が滅亡の危機を迎える」
一昔前のSFではごくありふれたこの題材が、今の世の中では絵空事でも何でも無く、現実の可能性として存在している。実際、本作でも具体例が描かれたように、数々のサイバー犯罪が世を騒がせており、それによって人生を滅茶苦茶に狂わされた人々の例は、枚挙にいとまがない。
本作はそういった、我々が暮らす現実社会の脆さを、実在の知識をもとに、軽妙な文章とハードボイルドなストーリーで紡いだ作品だ。
ジャンルとしてはクライム・サスペンスに近いかも知れないが、あえて「サイバーセキュリティ小説」と呼びたい。
「どこか遠く…続きを読む - ★★★ Excellent!!!すごいもの読んだ
実力主義で駆け上ったかと思いきやアウトロー(というと語弊があるけど)へ転落した主人公、住まいは新宿、同居人は闇医者。訪ねてくるのはインド系オタク女子。ゲーセンでよく対戦するのはヤクザ者。
男が追いかけるのは、突如姿を消した友人。
何これカッコいい。
とある陰謀に巻き込まれて奮闘する主人公の脇には、時にセキュリティサーバーを積んだ四つ脚ロボット(ピコピコいう。萌え担)、呼びかけに応えて現れるインテリジェントバイク(静かに現れる。厨二担)など、人外の存在が寄り添ったりします。
ITに詳しくない方も、ご心配なく。
魔法だとお考えください。どっちも呪文で動きます。大丈夫です。僕も「サーバー…続きを読む - ★★★ Excellent!!!映画で見たいです!
まるで映画を見ているように、映像がありありと浮かんできます。
手に汗を握るとはよく言いますが、ホントにドキドキハラハラさせられます。
普段、何も考えずに生活しているけれども、身近には危険が潜んでいる……。そう遠くない未来に起こりうる現実。
この分野に全く門外漢の私でも、ストーリーに引き込まれていきました。
多彩なキャラクターたちが生き生きと描かれて、その細やかな心理描写から行動までお見事です。
タイトルも秀逸で、意味が分かってからラストまで、このタイトルが頭の隅にずっとはりついてました。
あちこちに張り巡らされている伏線が、次々に回収されていく度に、「おお!」と膝を打ってしまい…続きを読む - ★★★ Excellent!!!その登場人物紹介(読後用)は卑怯じゃないッスか!?
本作は「サイエンス・ファンタジー」ではなく「サイエンス・フィクション」の意でのSF小説である(ジャンル自体は「現代ドラマ」選択だが、サイエンスが題材という点ではSFでも間違いじゃない)。
今よりほんの数年だけ先の近未来、サイバーセキュリティの分野でのテロと技術の進歩をテーマに、すれ違ったかつての友との戦いが描かれる。
現役の業界人である著者によるサイバーセキュリティ描写は地に足がついた感が強く、それでいて難解さがないところが素晴らしい。難しいこと、専門的なことを誰にでも分かりやすく書けるのは、それだけで最高にクールだ。
もちろん、読んでいて分からない箇所もあるのだが、そういう部分は読み流し…続きを読む - ★★★ Excellent!!!優しくて、微笑ましくて、まっすぐで、それだけ悲しい
結局、一番好きなのはサクでした。
主人公は友とすれ違い、友は後に世界を滅ぼす敵となって舞い戻る……という展開は王道なんですけど、現実世界を舞台にしてそれ書くのって難しいのだと思います。だって、普通はアメコミかファンタジーの中にしかいないですもん、一個人の力で世界を滅ぼすような宿敵。
しかしこの作品は、その書くのが難しいことを、知識と筆力によってしっかりと形にしていました。私はその意味で、サクというキャラクターは、この筆者の「書く力」がなければ創造できなかった宿敵であると感じています。だからこそ尊く、魅力的なんだと思います。
しかしサクは宿敵としての格だけでなく、まっすぐでどこか不器用な若…続きを読む