その登場人物紹介(読後用)は卑怯じゃないッスか!?

本作は「サイエンス・ファンタジー」ではなく「サイエンス・フィクション」の意でのSF小説である(ジャンル自体は「現代ドラマ」選択だが、サイエンスが題材という点ではSFでも間違いじゃない)。
今よりほんの数年だけ先の近未来、サイバーセキュリティの分野でのテロと技術の進歩をテーマに、すれ違ったかつての友との戦いが描かれる。

現役の業界人である著者によるサイバーセキュリティ描写は地に足がついた感が強く、それでいて難解さがないところが素晴らしい。難しいこと、専門的なことを誰にでも分かりやすく書けるのは、それだけで最高にクールだ。
もちろん、読んでいて分からない箇所もあるのだが、そういう部分は読み流しても構わない枝葉に限定されているのもニクい心遣い(たとえば、ラクシュと出会ったばかりのサクが自分のプログラミングの「クセ」を指摘されて改めるシーンは、そのプログラミングコードの何がどういうことか、私にはさっぱり分からなかった。が、どういうエピソードなのかは理解できる)。RSSを誰が作ったかなんて、本作で初めて知りましたよ!

前半は消えた友人・サクを探すショウが手がかりの女性と出会うまでと、サクと彼がどう出会いどう過ごしたかというお話。後半は、サクがどう変わり、何をしようとしているかというお話。行く道を違えた二人の男たちが、世界の危機の中でぶつかりあう……人もどんどん死んでいき、まさかこんなことになろうとは。

登場人物たちにカクヨム作家のモデルが存在する、という「内輪ネタ」もありつつ、全体のドラマも描写も完成度が高い。個人的にエモーショナルな部分はやや食い足りなさがあるけれど、これはおそらく個人の好みの範囲だし、そこもまたハードボイルさであろう(そもそも、登場人物に共感や感情移入を妨げられるほどではないのだ)。

ところで読後用登場人物紹介、見てみると違うバージョンの本編が想像されてあまりにも愉快ですね!

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