SFではない、起こり得る危機を描いた珠玉のサイバークライムサスペンス

サーバーセキュリティを題材に、『既存の技術のみであっても、一人の悪意ある人間によって引き起こすことができるであろう惨事』を描いた、息もつかせぬ怒涛の展開が押し寄せてくるクライムサスペンス小説です。
更にテーマはそれだけでなく、腕はあるのに淪落の淵に沈んでいた主人公が、大災害に見舞われた東京を新型バイクで疾走するという――そういうのが好きな人にはたまらない、骨太なハードボイルド要素も組み込まれている、非常にボリュームと満足感に溢れた内容でした。

作者さんの経験と知識と取材に裏打ちされた、緻密かつ精確な描写は、他の技術者の方々が読んでも文句が出てくることはないでしょう。
それでいて、専門知識のない人間でも充分に楽しめる作りになっています。個性的なキャラクター達やチョイチョイ挟まれるアニメ用語、毎ページごと「次の展開はどうなるの」と気になる強い『引き』が登場します。とにかくこの作品を読んだ全員に楽しんで貰いたいという、読者に対する作者さんの細やかな気配りが行き届いているなと感じました。
同時に『サイバー技術が大都市に未曽有の災害をもたらす。直接手を下さずとも、プログラミングによって人は殺せる』という、かつての人々が夢想し『SF』と呼んでいたものが、近未来の話ではなく『現代ドラマ』になったのだなぁとも感じさせられました。

友情、愛情、どの色の帽子を取るのか、そして技術が善いモノになるのか悪いモノになるかは『それ』を扱う人間次第……。そんな要素を深く考えさせられます。
どれだけ時代が進んでも、人間の本質に問いかけるべき普遍的なテーマが根幹にあるので、この作品は何年か過ぎた後に読んでも『名作であり続ける』と思いました。

どのキャラも魅力的で想い入れがあったため、最高のハッピーエンドを見たい気持ちもありました。しかしSFやファンタジーではない、時代性を追求したリアリティやリアルの作品であるため、安易な大団円ではないあの終わり方になったのだと思います。
不満点や改善点がちょっと思いつかないくらいには面白かったです。文句ナシの星3です。そら書籍化されるわな。

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