1と0の彼方――選ぶのは白か、黒か。

IT技術は急速に発達し、現代の社会を支える重大な基盤となっている。
そんな社会に生きながらも、恥ずかしながら私はITに関わる知識に疎い。
高度な専門用語が飛び交うその世界は、遥かな高次元に位置するものに感じられた。
この物語も、最初はそんな自分よりも遥か遠い世界の出来事を描いた物語なのだろうと思っていた。

しかし読み進めるごとに、気づく。
これは思っていたよりもずっとずっと近く――現在の私達が生きている世界そのものなのだと。
IT技術は高次元の技術などではなく、身近な生活に網の目の如く張り巡らされている。
この物語の登場人物達は、私達と同じくそんな世界に生きている。

ショウとサク――二人を中心とする登場人物達は、それぞれに高度な技能、知識、能力を持つ。
けれども彼らは、未知の技術を扱う超人などではない。その姿はどこまでも等身大で、息吹まで感じられそうなその描写は彼らが確かな血肉を持った人間であることを実感させてくれる。

この物語に、正義の味方だと完全も言い切れる存在はいない。
禍々しい企みをもった巨悪もいない。
ここに描かれているのは苦悩の末、なにか譲れぬもののために白――あるいは黒の帽子を取った人間の姿だ。
デジタルに彩られた彷徨の果て、固い絆で結ばれていたはずの二人はそれぞれ別の色の帽子をとる決意を下す。

この物語はわかりやすい説明やスリリングな展開を通じて、現在のネットワーク社会が実はとても危ういものであることを伝えている。
けれども、決してそれだけではない。

迷い、悩み、足掻き、それでもこのハイテク社会で情熱を燃やす人間たち。これはそんな不器用だけれども熱く、刺激的な人間達のほろ苦い生き様を描く――まさにジンジャーエールのような作品だと思う。

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