昨日傍にいた誰かが、いつかは食卓にのぼるかもしれない。

どうしようもない好奇心から魔族と恐れられる有角人の国を訪れたイオ。
そこで彼を迎えたのは隻眼の貴族カズスムクや彼の友タミーラク、婚約者ソムスキッラを初めとした人々。
彼らは皆、絢爛でありながら『同族を食わなければ生きていけない』という過酷な社会に生きている。
物語は、イオの手記を彼の孫レイアが再編しているという形で始まる。

イオは初め、その驚異的な好奇心のままに有角人の文化や儀礼を貪欲に学んでいく。
しかしやがて、彼が衝突する圧倒的な『断絶』の壁。
『わかりあえるかもしれない』から『わかりあえるわけがない』に至るまでの過程は、圧倒的な描写と精緻な世界によって裏打ちされ、読者にも抉り込むような衝撃を与えてくる。
そこからの展開がまた見事。
『食うこと』『食われること』だけでなく、時の流れのもたらす変化までもが描かれ、ほろ苦く静かな余韻を与えてくれる。

人は、なにかしら命を食わねば生きていくことができない。
その意味を、容赦なく突きつけてくる作品です。

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