文化人類学を志すイオは、未知なる文明の国に現地調査へ赴く。
そこでは、食人の文化が色濃く残っていた――。
素晴らしい。
本当に素晴らしい。
SFやファンタジーを書くのであれば、文化人類学は学びなさいと、とある編集者が言っていたことを思い出します。
自分たちとはちがう環境や常識で生きている人びとは、無知や野蛮なのではなく、ただただ文化がちがう。その文化がどうちがうのか、どのような宗教形態を持っていてどのように思考し、どのような事柄が生活様式を形作るのか。
これらをきちっと詰めている物語は骨太で面白い。
この物語は、まさにそれをひたすらに極めたお話です。
もうほんと、読んで!
はじめはちょっと小難しい単語が並んで「えっ!」って思うかもしれないけど、大丈夫だから! ちゃんと2話とか3話からふつうにお話進むから! 怖くないから! 怯えていただけなんだよね?!
物語を書く人間にとってはたいへんに勉強になるし、でなくともふつうに面白いです。まるでル=グウィンを読んでいるかのような重厚感。最後まで読み切ったときの、あえて言おう、美味しいものを食べた、満腹感。
この感動を、ぜひあなたにも。
食人と共食いでしか「肉」を食べられない種族、魔族。そんな魔族の社会が文化的に発展したとき、食人はどのような形で行われるのか。文化や価値観、宗教観はどのように形作られるのか。それらを魅力的に描き切ったのが本作です。
人間社会で生まれ育った主人公と、魔族社会の貴族との価値観の相違がとにかく面白く、しかもドラマの中で新たに見えてくる側面もあって飽きません。
その作りこみの深さやモキュメンタリーという表現形式から、どうしてもWEBの流行からは外れた重厚な作品になってはいますが、それでも一気に読んでしまうほどの魅力があります。
良いものを読ませていただきました。
どうしようもない好奇心から魔族と恐れられる有角人の国を訪れたイオ。
そこで彼を迎えたのは隻眼の貴族カズスムクや彼の友タミーラク、婚約者ソムスキッラを初めとした人々。
彼らは皆、絢爛でありながら『同族を食わなければ生きていけない』という過酷な社会に生きている。
物語は、イオの手記を彼の孫レイアが再編しているという形で始まる。
イオは初め、その驚異的な好奇心のままに有角人の文化や儀礼を貪欲に学んでいく。
しかしやがて、彼が衝突する圧倒的な『断絶』の壁。
『わかりあえるかもしれない』から『わかりあえるわけがない』に至るまでの過程は、圧倒的な描写と精緻な世界によって裏打ちされ、読者にも抉り込むような衝撃を与えてくる。
そこからの展開がまた見事。
『食うこと』『食われること』だけでなく、時の流れのもたらす変化までもが描かれ、ほろ苦く静かな余韻を与えてくれる。
人は、なにかしら命を食わねば生きていくことができない。
その意味を、容赦なく突きつけてくる作品です。
文化人類学者の主人公が、人食い文化を持つ有角人たちの国を訪れる。この作品はなんといっても設定の練りこみが驚異的。
人食い文化の中でも「共食い・同族食い」に焦点をあてているのが個性あり。「食べられるものVS食べるもの」という定番の構図を超え、「食べられるものであり食べるものでもある」この複雑で悲しみと食欲が混ざり合う怪しい関係性が実に魅力的。
貴族たちの文化風習と儀礼はどれも華やかで、だからこそ異質さが際立っている。
この作者さまは以前から世界観と家族関係の描写がすばらしかったのですが、本作ではさらに磨きがかかっていて圧巻のおもしろさに仕上がっています。