時給の高さに魅かれ、主人公の袴田がアルバイトの面接を受けたのは、樹海のそばにあるコンビニでした。シフトは深夜。新人は一週間程度で辞めてしまうという理由の一端を、袴田は勤務初日から味わうこととなります。そして一週間後、逃げ出したくなりながらも彼は夜勤のバイトを続ける決意をします。その決断の裏にあるのは、意地か、責任感か、それとも――?
24時間365日まぶしすぎるぐらい明るいコンビニ。深夜、街灯の少ない道を歩いていても、遠くにコンビニが見えるだけでホッとしますよね。そんな安心の砦ともいえる場所が樹海の近くにあるとホラーの舞台へと変化します。自動ドア、ATM、防犯カメラのモニタ。あんまんさえも恐怖の彩るアイテムとして活躍します。そうしたコンビニおなじみのものだけでなく、この作品に色を与えるのは、何といっても個性的な登場人物たちでしょう。誰もが主役級の個性を放ちながら、物語の枠に押し付けられることもなく、きちんと寄り添っています。特に9話~12話に登場した二人組は「筆者の別の作品の登場人物かな?」と勘違いし、作品を探してしまいました。
息を細めるような恐怖とほろ苦い後味、幕間の笑い、寂しい気もするけれど晴れやかな読後感。そんな魅力たっぷりの作品です。
小説でここまで恐怖感を味わえたのは初めてです。文字だけの小説が読者にこれ程恐怖感を与えるのは簡単ではありません。感服しました。
実際に体験したかのように、それでいて映画ジョーズのように迫り来る緊迫感を丁寧に描写し、読者の脳裏に表現させる作者の文才は、芥川龍之介が書いたと言っても過言ではないと、私は思いました。
(言い過ぎだろ、って思った人は『羅生門』をしっかり読んでみてください。)
ストーリーも筋が通っていてとても良いものでした。最近の小説のように話が変に脱線するようなこと無く、最初から最後までひとつの結果に結びついていく感じが、読んでいて心地よかったです。
この小説は前半に伏線が多いですね。私はその伏線を注意しながら読んでいったので、後半になってからどんどん膨らんでいく展開が、ミステリー小説のようで面白かったと感じました。