#00-02「ただのコスプレじゃねえか」
「なにが《
走りながら僕がそうつぶやくと、後ろから思い切り背中を蹴り飛ばされた。
「いってえ!?」
勢いがついてたところだったので危うく転びそうになるが、なんとか踏ん張って持ちこたえる。
「なにすんだよ」
後ろを振り返って文句を言うと、僕の背中を蹴り抜いた張本人はぷくっとほおを膨らませて唸った。
「バカ梅田」
さっきまでウェディングドレスの花嫁姿だったはずのその少女——
「カレン、ごめん僕が悪かった。なにがカレイドガールだ馬鹿馬鹿しい、おままごとみたいなただのヘタクソコスプレじゃねえかって、ちょっと悪口が過ぎたな——あぁっん!?」
こんどはデリケートなお尻を蹴り抜かれたので口からへんな声が漏れた。
「これはれっきとした変装術、魔法なの。せっかく苦労して変装してるんだから、ばかにするのやめてよね」
お行儀悪くしゃべりながら口のなかをもぐもぐやっているから、きっと苦手な「甘いもの」を食べている最中なのだろう。道理でさっきから機嫌が悪そうなわけだ。ヒョーゴ警察に追われているうえに苦手なものを食べなきゃいけない彼女は、ここ最近見たなかでいちばんご機嫌ななめだ。だからさっきみたいに僕に八つ当たりしてくるのである。迷惑なやつめ。
「なんか言った、梅田?」
「いいえ、なんでもございません」
街灯の影からヒョーゴ警察が飛び出してきて、僕たちはあわてて方向転換する。すると向こうからも警察が追ってくる姿が見えて、しかたなく脇の路地に入り込んだ。
「カレン、どうする? 今晩の
「しょうがないなあ」
カレンはふうとため息をついて、大発表しちゃうよ?と言いたげなほどの満を持したドヤ顔で言った。
「梅田、プランBでいくよ」
「な、なに……?」
僕は愕然とした。「プランB……だと……?」
……なんだっけそれ。事前の打ち合わせなしで作戦名をコードネームで呼ぶのやめろよまったくわかんないだろ!
「プランB、名付けて『可憐な美少女カレンちゃんが身体を張っておとりになってその隙にゲス野郎梅田がしっぽ巻いて逃げるんだよ作戦』!」
「人聞きの悪い言い方すんな!」
ようはカレンがおとりになって警察をおびき寄せ、変装術を駆使して煙に巻き、反抗手段を持たない僕がその隙に逃げる、という作戦だ。いや、まあ言われてみればそのまんまなんだけど、改めて作戦名に付けられるといたたまれないな、僕……。
「しょうがないだろ、僕はきみみたいに魔法が使えないんだ」
「わかってるの。《
「もうすぐふたりも来るはずなの。それまで逃げ切るよ」
「……了解」
「じゃあ、
するどい掛け声とともに立ち止まったカレンの姿が、オレンジ色の淡い光に包まれた。どうやら魔法を解いたらしい。振り向いた僕の視界に映ったのは、豊かな金色の髪を振りまく少女の後ろ姿だ。どこにでもいそうな帝都コーベの女学生ではない、まぎれもなく帝都に名を轟かせる怪盗・カレイドガールのシルエット。
西宮カレン。
「いたぞ、カレイドガールだッ!」
「逃がすな!」
角を曲がってカレンの姿が見えなくなると、警察のぶしつけな大声が路地に響いた。カレンがわざと警察の前に姿を表して、彼らの注意を引いたんだろう。プランBの作戦どおり、僕はそのうちに退散を決め込むとする。
「待て、梅田とかいう探偵がいないぞ」
「まさか陽動じゃないのか」
「かまわん、あいつはどうせ金魚のフンだ、カレイドガールだけを狙え!」よけいなお世話だ!
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