#03 Dumpling.
『第三話 まんじゅうひとつ、夜空に浮かべて』
#03-01「屋台料理頂上決戦」
「というわけで、神聖なる第一回西宮カレン怪盗団お料理対決、はじまりはじまり〜」
カレンの号令に合わせて、ぱらぱらとまばらな拍手があがった。拍手をしたのは当のカレンと花熊だけだ。カレンはもちろんこの茶番の趣旨をわかっているだろうが、花熊は「対決でありますかっ!」とらんらんと目を輝かせているあたり、意味はわかってないだろう。
僕たちの目の前には、いろいろな食材や調理器具が、拠点のキッチンにところ狭しと並べられている。
「なにこれ」
三十重が呆れ顔で固まっているので、僕が代わりに訊いてやる。
「梅田、いい質問なの」
「さいですか」褒められてもちっとも嬉しくねえよ。
「これは対決用の食材と調理器具なの!」僕の疑問なにひとつ解決してねえじゃんか!
「なにこれ……って、それはこっちの台詞ですわ!」
とつぜん大声が聞こえたのでそちらへ目を向けると、そこにはヒョーゴ警察の夙川警部、そして彼女の腹心の部下である御影さんがいた。警察がこんなとこでなにやってんだ。仕事しろ。
「西宮カレンに呼ばれたのでふらっと遊びに来て——げふげふん、逮捕しに大急ぎで来てみたら、なんですのこれはっ。お料理対決なんて聞いてませんわ!」
「言ってないもん」
「こしゃくなーッ!」
地団駄を踏みながらカレンをにらみつける夙川警部。らちが明かないので、僕はカレンに率直に訊ねてみる。
「どうして料理だなんて言いはじめたんだ?」
「ふふーん」
カレンは鼻を鳴らし、とある一枚の紙切れを見せてきた。のぞき込む僕たちの前に突きつけられているのは、見覚えのあるチラシだった。
『
僕たち西宮カレン怪盗団が招かれたという、帝都にある神社の納涼祭だ。
「お祭りでありますかっ!」
案の定、花熊がキーワードに反応して叫んだ。彼女は気になる単語に反応して脊髄反射で動く、言ってみれば光に反応して寄ってくる虫みたいな頭の持ち主なのだ。
「お祭りと料理に、なにか関係が?」
僕の質問に、カレンはふんぞり返って僕たちに訊ねた。
「お祭りの屋台といえば?」
「……やきそば?」
「綿あめであります!」
「焼きとうもろこしだろう、常識で考えたまえ」
「焼きトリュフですわっ」
「そんなものはお祭りに売ってないですよ、警部」
「みんな正解っ!」
カレンが叫ぶので、僕たちはみな一様にぽかんと口を開いたままだ。みんな正解? てんでばらばらな答えなのに?
「料理だよ、料理」
カレンが言う。「屋台といえば、屋台料理! お祭りでひと儲けするのにふさわしいものを決める、おいしい屋台料理頂上決戦なの!」
カレンが言うには、お祭りに出す露店でひと儲けするために、僕たちのなかでいちばん料理のうまいひとを決めて、そのひとの料理を屋台で振る舞おうというのだ。
「わたくしは関係ないでしょう、あなたたちだけでやりなさいよ!」
ぶうぶう文句を垂れる夙川警部。言っていることはもっともだが(そもそもなんでここに来てんだ、という突っ込みは置いておくとして)、そんな警部にカレンはいたずらに微笑む。
「あれぇ〜? お嬢さまはやっぱりこういうのが苦手なのかなぁ〜?」
めっちゃ煽ってる。いまどきネット上でも見ないようなあからさまな煽りを目の当たりにして、僕はあきれた。そんなんだれも引っかからねえだろ……。「むきぃ〜〜っ、に、西宮カレン、よくもわたくしを小馬鹿にしましたわねっ。いいでしょう、受けて立ちますわっ!」ここにいましたわ! 御影さんもいつのまにかエプロン巻いてるし!
「よしきたぁぁああ」
花熊はフライパンを握りながら早くも快哉を叫んでいる。そのまま僕にぶん投げてきそうな勢いだったので、僕は三十重のもとに逃げ込んだ。
「おい三十重、黙ってないでカレンになにか言ってくれよ」
「……」
「……三十重?」
「……」
カレンの着想を聞いた三十重はぐうの音も出ないようで、呆然と目の前の食材やら調理器具やらを見つめている。その顔面は蒼白だ。どうした? つまみ食いして悪いものにでもあたったか?
「りょうり……だと……?」
三十重がつぶやく。「料理は爆発……」なに怖いこと言ってんの?
「ルールは簡単」カレンが言う。「みんなが料理をつくって、わたしが審査をします。『これだっ!』と思ったものについては、こんどの秋祭りでわたしたちが出す露店で振る舞うものとします。なお、審査結果はわたしの独断と偏見と横暴と抑制と圧殺と残虐の限りを尽くすのでいっさいの異論を認めません」血も涙もない独裁者め、民主主義万歳!
「それじゃあ、対決開始なのっ!」
いつもどおりのカレンの開始宣言をもって、西宮カレン怪盗団(+α)の屋台料理頂上決戦が開始されたのだった。
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