#04 Cotton Candy.

『最終話 綿あめがつなぐ僕らの魔法」

#04-01「西宮カレン怪盗団の命運を」

 ここ帝都コーベのどこかの遊園地でこっそりつくられているという、華式綿花糖かしきめんかとうというお菓子。

 赤、青、黄色、緑、紫、そのほか色とりどりの色をした、大きく花開いたような形の綺麗な綿飴。

 それはじつは、帝都に跋扈する悪の組織コーベ・マフィアにより、こっそりと秘密裡に製造されている、いわば麻薬だった。華式綿花糖を食べた《魔糖少女ドルチアリア》は重大な影響を受け、魔法力が暴走してしまうという。

《オーバースペル》と呼ばれる魔法力の暴走状態は、本来であればとある方法で自然に発生するものだった。それは、「たいせつなひとのつくった手づくりのお菓子」を食べること。しかし、華式綿花糖はそれを強制的に発生させる。その強制的な暴走状態の末に《ドルチアリア》がどうなってしまうのかは、まだよくわかっていないのだそうだ。

 僕たち西宮カレン怪盗団は、おそらくマフィア上層部しか知らないであろうその綿飴の製法を盗み出し、開発を止めるべく動き出していた。酒饅頭をしこたま喰わされたあとの二日酔い(?)からやっとのことで生還したカレンに、僕は今回の作戦を提案していたのだ。

「帝都のためになる作戦だね。梅田にしては上出来なの」

 カレンがまたいらん一言を添えるので、僕はきっとにらみつけてやった。するとカレンはぺろっと舌を出して応戦する。まったくおちゃめなやつだ。張り倒してやりたい。

「じゃあ、作戦は実行?」

 そう訊くと、カレンは「うん」と返事をした。その返事を聞いて、僕はいくぶんか安心する。

 まあ、カレンがこの作戦に乗ってくれるだろうとは思っていた。なにせ彼女は「帝都のことになるとむきになる」のだ。それは『反チョコレート大作戦』で製菓工場に侵入したとき、そこで出逢ったマフィアにカレンが楯突いたことから立証されている。その態度を三十重もからかっていた。だから僕は、マフィアの悪の手から帝都を守るというていで、今回の作戦を立案したのだ。

「それに、わたしをあんなひどいめに遭わせた変態マフィアたちに、一泡吹かせてやるの」

 のこのこ罠にはまりに行ったおまえが悪いだろ……と思ったが、あの花火の夜にカレンが見せた彼女の心を思い出すと、僕の口は自然と引き結ばれた。代わりに力強くうなずいてやる。

「みんな、遊園地に行くよ」

 カレンがそう言うと、そばで作戦をぼんやり聞いていた花熊が声をあげた。

「遊園地でありますかっ!」

 案の定わいわい騒ぎ出すので、僕はていねいに突っ込んであげる。

「花熊、のん気に遊びに行くんじゃないんだぞ」

「もちろんであります! 全力で楽しみましょう!」そういう意味じゃねえよ!

「これは西宮カレン怪盗団の命運を賭けた、コーベ・マフィアとの全面対決なの。覚悟はいい?」

 カレンの言葉に僕たちはうなずく。そして、怪盗団団長カレンの号令が響き渡る。

「弱きを助け諸悪をくじく、怪盗・《万華少女カレイドガール》! お宝はわたしがいただきなのっ。にひひ」

 うわーい、いえーい、と騒ぎ合うカレンと花熊のかたわら、僕と三十重は目を合わせた。カレンはこの作戦に乗った。スタートラインに立ったわけだ。もう後戻りはできない。今回の作戦が終わったころには、僕たちはどうしようもなくすれ違ってしまうかもしれない。もうこの四人で騒ぎ合うこともできないのかもしれない。三十重の「だいじな話」を聞いてから、僕の心にはそんなほの暗い気持ちが立ち込めていた。そんなことぜったいありえないと思いながらも、心のすみっこはぞわぞわとさざめき立っている。

 ——わたしはね、天使なんかにはなれないの。

 それじゃあ、カレン。きみはいったい、なにになろうとしているんだ?

 僕たち西宮カレン怪盗団の向かう未来。

 それはもう、だれにもわからなかった。



 僕が暴き出した遊園地は、帝都コーベ市街からすこし離れた山間部にある場所だった。帝都のそばにそびえる山、マヤ・マウンテンを越えたところだ。ジェットコースターや観覧車などのアトラクションはもちろん、大型の商業施設、はては日帰り温泉まで併設されているので、子どもからおとなまでが楽しめるスポットとして人気を集めている。帝都中心部から離れたところにはあるのだが、休日は家族連れなどで賑わっている。まんなかに建てられた巨大なお城みたいな建物が、この遊園地のシンボル「セントラル・キャッスル」だ。

「市民の集まる人気スポットじゃないか。こんなところで華式綿花糖をつくっていたなんて」

 三十重が驚きの声をあげる。僕もおなじ思いだった。やはりデータを集めるには人が多く集まる場所がいいんだろう。

「華式綿花糖が量産されるまえに、すぐにそこに行くの」

 カレンの言うことももっともだ。華式綿花糖の開発が終わって量産がはじまったら、裏ルートで帝都じゅうに撒き散らされてしまうかもしれない。帝都の《魔糖少女ドルチアリア》の手に渡ったら、コーベ・マフィアにどう利用されるかわかったものではない。

「急ごう」

 僕たちは準備を終え、遊園地に向けて出発した。

 一〇月三十一日。

 ハロウィンの日のことだった。

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