#00-05「こんな茶番はただのお遊戯」

 てっぺんまで登って外へ出ると、港街コーベの海風が冷たく僕たちに吹きつけた。足許にはきらびやかな帝都の街灯りが見える。オーサカ海は宵闇をふんだんに溜め込み、吸い込まれそうなほどに黒々として横たわっている。

 波止場にはたくさんのヒョーゴ警察の警官が集まっていた。よくよく見ると、そのなかに場違いなドレスを着た人物の影があった。太陽はとっくに沈んだくせに日傘を差している。日傘のせいで空のようすが見えないから、夜になったのもわかんないんだろうか。だれか「もう夜ですよ」って教えてあげればいいのに。ヒョーゴ警察もいじわるな人たちばかりなんだな。

 ドレスを着た人物がうやうやしく前に出てきた。お上品なゆるふわ巻き髪をゆらゆら揺らして、腰に手を当てて僕らを見上げた。その隣に立っている付き人的な人物に日傘を渡し、その代わりにメガホンを受け取る。不敵に微笑むその人物を見て、カレンが僕のとなりでため息をついた。

「うわ、けーぶじゃん……」

 ヒョーゴ警察のお偉いさん、夙川しゅくがわ警部。

 そのとなりの人物は彼女の補佐官、御影みかげさんだ。

『おーっほっほっほ!』

 メガホンを通して警部の甲高い笑い声が響く。僕は思わず両手で耳を塞いだ。笑いたかったらメガホン構える前に済ませといてくれないかな、うるさいから!

『怪盗・カレイドガール——いえ、西宮カレン! それとおまけの探偵・梅田!』

「おまけは余計だ!」どいつもこいつも好き放題言いやがって!

『今日はいちだんとお元気でいらしたわね、なかなか愉快でしたわ。あなたはうまく逃げ果せていたおつもりかもしれませんが、わたくしの優秀な部下たちにかかれば、こんな茶番はただのお遊戯、おままごとでしかありませんの、そうでしょう、みなさん?』

 警部が呼びかけると、ヒョーゴ警察の面々からまばらな拍手があがる。警部は満更でもなさそうにうすい胸を張っている。こっちも引けを取らない茶番を見せられてなかなか愉快だ。

『おほん。楽しいパーティももうお開きのようね。追いかけっこはもう終わりですわ、あなたたちは完全に包囲されていますの。さあ、西宮カレン……今宵、おとなしくお縄を頂戴なさい!』

 そう言うのと同時、タワーのてっぺんのドアが開いて、警官たちがなだれ込んできた。僕はカレンの手を引いてタワーの縁に立ち、思い切り叫んだ。

「カレン、飛べ!」

「え、ええっ!?」

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