#01-11「お宝はわたしがいただきなの」

 カレンと合流し、僕たちはキタノの拠点へと帰還した。

「カレン、お疲れ。おかげで重要な情報を得ることができた」

 彼女は変装の魔法を解除し、すでにいつもの姿へと戻っている。

「……うん」

「どうした、カレン?」

 歯切れの悪い返事を聞いて、すこし不安になった僕は彼女に問いかける。

「……なんでもないの」

 わだかまりを振り払うようにかぶりを振るカレン。そこへ三十重が訳知り顔でうそぶく。

「カレンは帝都のことになるとああやってむきになるのだ。まあ、無事に帰ってこられたんだから気にするのはやめたまえ」

「……うるさいのっ」

 三十重の茶化しにほおをふくらませるカレン。なんだ、マフィアに喰ってかかってしまったのを気に病んでいたのか? たしかにカレンらしくない冷静さを欠いた態度だったように思うが、「用済みだ」なんて帝都の人間のことを顧みない発言、僕だって頭に来た。三十重の言うとおり、無事に帰って来られたんだから結果オーライだ。

 そう言うと、どこか居心地の悪いような、釈然としないような表情を見せるカレン。

「なんだよ、カレン」

「……梅田にフォローされるとちょっとフクザツなの」そりゃ悪うござんしたね! 僕の渾身の思いやりを返せ!

「ところで、梅田」三十重が言う。「マフィアの言っていたことだが……」

「ああ。やつらはやっぱり、帝都のチョコレートを悪事に利用していた」

「それはなんでありますかっ?」

 身を乗り出してくる花熊。カレンも三十重も、僕の言葉の行く先を見守っている。

「密輸だよ」

「密輸……」

「そう。やつらは帝都のチョコレートのなかに、宝石を仕込んでるんだ。ふつうのチョコにカムフラージュして、海外へ宝石を違法に売り飛ばそうとしている。もうそろそろ、その密輸の取引も終わる。今月の十四日の夜中に、コーベ空港からその最後の便が出る」

「今月の十四日って……」

 三十重がカレンダーを見た。僕もカレンダーに目をやる。

 草木の芽も張り出す二月。その十四日の日付にはこう書いてあった。

 聖バレンタインデー。

「ふふん」カレンが鼻を鳴らした。「バレンタインの日にマフィアから奪われたチョコを取り返すなんて、なかなか粋なの」

 やけにやる気だ。マフィアの悪事と聞いて、「対悪専門」の怪盗たるカレイドガールの心に火がついたらしい。こいつ、マフィアから金銀財宝を巻き上げる気だ。必然的に、僕らもそれに駆り出されることになる。

「それに、いいチャンスなの」

「なにが」

「今年を機に、バレンタインは女子が男子にチョコを渡す日じゃなくて、男子が女子全員に宝石を贈る日にするの」

 そんなのあんまりだ! 純情男子のくすぶる恋心はどうなるんだ、チョコに対する私怨を持ち込むんじゃない!

「名付けて、『神聖なる第一次“反”チョコレート大作戦』!」

「す、すす、すばらしいっ、カレン殿はネーミングセンスが壊滅的であります!」

「まったく……面倒ごとはよしてくれたまえ……」

 カレンの叫んだ作戦名を聞いて花熊が身を震えさせ、三十重も呆れたようにため息をついた。

「作戦開始なの!」

 それらの反応を意に介することなく、カレンは胸を張って作戦開始を宣言した。

「弱きを助け諸悪をくじく、怪盗・《万華少女カレイドガール》! お宝はわたしがいただきなのっ。にひひ」

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