エピローグ2

 この島に戻ってきてまだ二週間ほどしか経っていないことに気付いて、少し驚く。


 少女――天野碧は、授業中、外の景色を見ながら考える。


 この島にまたやって来たのも、ほとんど無我夢中といった感じだった。本当に、何も考えずにまたここに来てしまったけれど、今はあの時とは違う。碧には、たくさんの友達ができた。拓海、峻、奈津、望海。それだけじゃない。本当にたくさんの仲間と言える存在を手に入れることができた。


 幸せだ。本当に、恵まれていると思う。だけど、目的を忘れてはいけない。

 自分は、この島の風景を取り戻しにきたのだから。そのために、自分が残してきた痕跡を回収していかなければならない。この島に、七不思議として伝わる自分の痕跡を。自分自身の心を。


 そしてもう一つ。


 天上界に戻って、驚いたことがある。友達が、自分のために力を使い果たして、地上に落ちてしまったこと。そして今も行方不明だということ。

 その友達を探すため。その目的もある。いや、もしかするとその目的の方が今は大きいのかもしれない。


 ……その友達は、実はもう見つかったのかもしれないけれど。


 だけど分からない。どうすればよいのか。

 自分は、友達を連れて天上界に戻るつもりだった。それなのに、この島の人間と触れ合って、人間という存在が悪いものばかりではないことを知って、それでいて、彼女らを、望海たちを裏切るようなことはできるのか。


 今の碧には分からなかった。



 碧はここに来るまでにたくさんの準備をしてきた。そして、またこの島に降り立った。アオという名前をもじって日本語の名前を用意したり、人間界の暮らしに慣れるために、人間の暮らしを学んだり、とおおよそ神さまの子どもとは言えないことをしていた。


 そして、自分の過去を拓海たちが救ってくれた。碧はただ、傍観するしかできなかった。でも、彼女が心に戻ってきたとき、すごく温かい気持ちが伝わってきた。

 彼女に伝えたかった。今の自分にはこんなにも大切な友達がいるのだと。こんなにも幸せなのだと。君はひとりぼっちなんかじゃないんだってこと。


 そのためにあの夜、一人で望海の家を抜け出して、雌川島へと向かった。ほとんど無我夢中であの「アオ」の元へと向かった。


 結果的には、碧の努力は徒労に終わったばかりでなく、二人が「アオ」の心を救ってくれた。

 本当に救われてばかりなのだ。だからこそ、裏切りたくはないのだった。



 碧の物語には続きがある。だけど、それは碧ですら分からない。あのおとぎ話の続きは、碧自身が切り開いていくものだからだ。


 誰だって、自分のストーリーを生きている。碧だって、その一人に過ぎない。それがたまたま、おとぎ話になっただけだ。


 だから、あのおとぎ話は終わってなどいない。


 むしろ、始まったばかりなのだ。


 それをどう変えていくかは自分次第。そんな簡単なことを教えてくれた人がいる。


 だから、今度は自分が頑張るしかない。


 さあ、物語を作っていこうか――。




                                           Their story goes on...

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フェアリィ・ストーリー 西進 @ykp-sugi

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