第7話
翌日になって、雨は勢いを増した。完全に外は嵐の様相だ。
朝の天気予報でも、気象予報士が困惑気味にこの天ノ島諸島の雨について解説していた。雨が降っているのはこの島の周辺だけだという。
「たっくん、今日は休校だって」
「やっぱそうか……」
学校からの電話を取った望海が言う。こんな嵐ならそうなっても仕方はない。
「それにしても、本当にじいちゃんの言った通りだったな」
「ふん、俺がその手の見逃しをするわけがなかろう。……だが、普通の嵐とは違う。何か嫌な感じがするな」
朝ごはんを食べながら、じいちゃんは遠くを見つめる。
「嫌な感じ?」
「ああ、そうだ。何か普通じゃないというか、そんな印象を受ける。……何かあったのかもしれんな」
俺は、いや、俺たちはそのことについて心当たりがあった。
心のどこかで、もしかするとそうなのかもしれないと引っかかっていたことが今、現実味を帯びて俺の中に暗い影を落としている。
この異常気象が、もしも神の御霊の怒りの象徴だとしたら?
それは、俺たちが引き起こしてしまったことではないか。取り返しのつかない、神の祟り。
俺は居てもたってもいられずに、峻に電話をする。
「雨、か」
電話の向こうで峻がぼそりと呟く。それは何気ない一言のようで、何か重みに満ちている。峻も俺と同じような嫌な予感がしていたらしい。
「確か昨日は晴れるって言ってたよな。それも快晴が一週間ほど続くって」
「ああ、だから俺も気になっていた。……だけど、やることは変わらないんじゃないか、拓海?」
そうだ。やることは何も変わらない。俺たちは望海の記憶を取り戻すためにもう一度あの神社へと向かうことにしていたのだ。
「……そうだな。明日、八雲の家に集合するってのは変更なしだ。それまでに話をつけるってのも」
ここまで来たんだ。あとはもうなるようになる。
だから、俺はこの島への、望海への、みんなへの想いを胸に、ただがんばるだけだ。
▽
『こちら、天ノ島諸島の雌川島です。この異常気象も今日一日中ずっととなりました。日本列島が全国晴れ渡る中、この天ノ島諸島だけは雨が降り続いておりました。また、突風や雷を伴っていることからも、まるで台風が来たかのような現場になっております。現地の人は漁業や農業に深刻な被害が出ると心配している他、この島々に伝わっている神様の
夜のニュースのトップは今日もこの天ノ島諸島の異常気象だった。他にニュースもないのか、と思うがたぶんそれだけこれが異常なのだろう。
神の祟り、ね。これを聞いている人はバカバカしいとか思ってるんだろな。
でも、俺は神の力を見てしまっている。もう、ここまで来たら否定なんてできない。
だが俺はどうするべきか、もう答えは出ている。
最後に残った碧との話は、今晩のはずだった。だが、この雨のせいでなかなか来るのも大変そうだ。
晩ご飯を食べ終わったタイミングでも碧がやって来ないので、とりあえず俺は風呂にでも入ろうと自分の部屋から一階の風呂場へと向かう。
「望海、先風呂入るぞー」
いつも一番風呂は俺が頂いていたので特に言う必要もなかったのだが、習慣でそれだけ言っていくことにしていた。そのまま一階に降り、風呂場へと向かう。
俺が風呂入っている間に碧が来たらどうしようか、などと思うがまあその時は望海にうまく言っておいてもらおう、と思って脱衣所への引き戸を開ける。
持ってきていた着替えやバスタオルなどを置き、服を脱ごうと衣服に手を伸ばした瞬間だった。
「――で、その時拓海がさー」
「えー、何それ。たっくん何やってるんだか」
風呂場の中から黄色い声が聞こえる。それも二人分。
俺は何が起きてるのかを整理していたものの、自分がすべき行動に気づくまで五秒はかかった。
だが、その五秒が命取りだったのだ。
風呂場のドアが開く。そこから出てきたのは
一人は凹凸のあまりない胸を持ち、もう一人は艶やかな金色がかった長い髪を持つ。
「――ってうわあああああああ!!!!」
「きゃああああああ!!!!」
俺と望海の声がピッタリ合う。俺は急いで外に出て引き戸を閉めた。
それからしばらくして俺は少し落ち着き、中にいるだろう望海、そして碧に声を掛ける。
「……本当にすまん。まさか入ってるとは思わなくて」
「ううん、こっちこそごめんね。なんにも言ってなかったから」
「それにしてもどうして二人で入ってるんだよ」
「ごめん、拓海。それはボクが言い出したことだから」
碧の声がする。
「今日、拓海や望海と話すついでに一晩泊まらせてもらおうかと思ってさ。望海に話してたんだけど、拓海には言ってなくて……」
ああ、そういうことか。それで風呂場に。
俺は、先ほどの光景を頭から振り払おうと努力するものの、しっかりと脳裏に焼き付いてしまっており、なかなか離れようとしない。
「ああ、うん分かったよ……。とりあえず疲れたから部屋に戻るわ。上がったら呼んでくれ」
望海の「う、うん」という言葉を聞いて俺はその場を離れる。二階にある自分の部屋に戻ろうと階段に足をかけたとき、居間にいるじいちゃんと目が合った。
「……このスケベ男」
「誤解だ!」
だからそんな目で見ないでほしい。じいちゃんだってそんな時期があったはずだ。……たぶん。
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