第8話
「……えーと、最初の一行は、『
その一言で、みんなの空気が変わる。ざわっ、とした何かが俺たちの中で沸き起こった。
だけど、その理由が俺には分からない。
「……えーと、碧。今さ、何語をしゃべったんだ?」
「日本語だよ!」
え? 今の日本語? あ、まさかあれか。古文ってやつか。そういや、浩美ちゃんに習ったようなそうでないような。そっか、あれって日本語だったんだ。
「あ、あのさ……、古文は読まなくていいから、俺に分かるように現代語で大まかな内容を話してほしいんだけど」
「たっくんは
「だ、だって重要なのは内容だろ!」
風情がないとはなんだ……。っていうかお前、風情が何か分かって言ってるのか? いや、俺も分かんないけどさ。
「確かにあんたの言う通りでもあるかもしれないけど、今のはあたしでも聞いたら何となく分かったよ。つまり、こういうことでしょ? これは、天ノ島諸島に伝わる七不思議に関する記述である。……違う?」
奈津が碧に顔を向ける。それを聞いて満足そうに碧は頷いた。
「その通りだよ!」
俺はそれを聞いて何かを思い出す。つい最近、そんな話をしていたじゃないか。碧が来たせいで有耶無耶になっていたけれど――、
「待てよ。……七不思議って」
「やっと思い出したか。そうだ、俺たちが探していた七不思議の伝説の手掛かりがこんな所にあったってわけだ」
峻が言う。それで俺は、みんながさっきの碧の一言で驚いていた理由をやっと悟った。
「……マジかよ、こんな所に……」
こういうのを何て言うんだっけ。灯台がどうのこうのと言っていた気がするのだが……。でも、灯台は明るいに越したことはないよな。漁の時には灯台が目印になるって言うし。
「えーと、先、続けていいかな? みんなが驚いてる理由も知りたいんだけどね」
碧が尋ねる。そういえば、碧はこの七不思議の伝説について知らないんだったな。だから、俺たちが驚いているのも分からないのだろう。……後で教えてやらないとな。
「あぁ、頼むよ碧。後でそのことも教えてやるからさ。……後さ、ごめん碧。俺、原文聞いても分かんないから現代語訳で頼むわ」
俺は手を合わせてお願いをする。それを見て、碧は珍しく少しだけ不満気に口をへの字に曲げた。
「えー、こういうのって原文で聞くからこそおもしろいのにー。……まあ、でもいっか。じゃあ、訳の方で話すね」
「助かる!」
俺は心の底からそう言った。だって授業でもないのに、そんな古文の授業みたいなのを聞かされるなんて
「ま、ここから先はあたしもたぶん分かんないだろうしね」
奈津もアハハ、と笑って言った。
「じゃ、行くよ。……次の一行には、『また、これは天ノ島諸島の起源を
「起源? ……それってこの島ができた時のことだよね?」望海が尋ねる。
「そういうことだな……、まあ、伝説とかそのような類の話にはありがちな一文だ」答えたのは峻だ。
「じゃ、次の一文だね。…………これはどういうことだろう?」
「どうしたんだ?」
「いや、次の文だけどね、『七不思議を解き明かし、七つの神の
碧の言葉に俺たちはシン、と静まる。しかし、俺は堪えきれなくなってプッ、と吹いてしまった。
「ハハハ、笑わせんなよ! この島が消えるって? そんなわけねえだろ。あれだよ、イタズラだってイタズラ! ったく、七不思議だっていうからどんなもんかと思ってたけど、ただの子供だましじゃねえか」
さすがに悪い冗談も程々にして欲しい。だが、笑い続けているのは俺だけで、他のみんなは何かを考え込んでいるようだった。
「……拓海、そう決め付けるのにはまだ早い」峻が呟く。
「どうしてだよ?」
さすがに笑いも収まった俺は、右手を口にあてて何かを考えている峻を見やる。
「どうしてわざわざこんな難しい文字を用いてまでこんな石碑に文字を書き込んだんだ?」
「いや、そりゃあほんとっぽく見せるためだろ」
「それにしては手が込みすぎていると思うのだが?」
それを言ってしまうとキリがないように思えてしまう。峻の言葉に続いたのは奈津だった。
「それにさ、拓海。あっちにも文字が書かれてあるんだよ。それもビッシリ。あたしの予想だと、あっちには七不思議の内容が書いてあるんだと思うけど。そこまで念入りにやるなんて、普通じゃ考えられないよ」
「いや、それは……」
まさか、みんな本当のことだと思ってるのか? いや、でもこの島が消えるだなんてそんな話があるっていうのか?
「たっくん……」
望海が俺を不安気に見る。その怯えたような顔に、「大丈夫だって」と言ってやりたかったが、俺自身がそれを保証できなかった。
「……ともかく、あっちも読んでみた方がいいみたいだね」
黙ってしまった俺たちを見て、碧が口を開く。
「……頼む」
先ほどとは打って変わって真剣に、俺たちは碧がもう一つの石碑の場所まで移動し、それをじっくち眺めるのを見ていた。
どれくらいの時間が経ったのか。とても長い時間のように思えたが、碧がついに口を開く。
「……うん、読めたよ。それじゃ、聞いててね」
俺たちは、碧の元に近寄った。
有り得ない、そう思っていても気になってしまう。信じたくない、それでも色々なことがこの伝説を信じないといけないと思わせてしまう。
俺は、俺たちはこの七不思議の伝説を機に変わってしまうのだろうか。この島も、この島に住む人たちも、みんな。
そんなことは有り得ないと思っていたことが、いよいよ起こってしまうのだろうか。
俺たちは、碧の言葉を待つ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます