第5話
「……ここはどこだ?」
俺は闇の中で、歩き続ける。歩き続けるとはいっても地面も何もないし、その感触もない。ふわふわと、しっかりとした感覚もないままに歩き続けていた。
「夢、なのかなぁ?」
そう思って、頬をつねる。
「……痛い」
しかも、しっかりとまだ、奈津に叩かれた感触が残っていた。
でも、それが俺にこれは夢ではないということを教えてくれた。
なら、望海はどこにいる? 周りは何も見えない。真っ暗闇だ。
「拓海」
その声に俺は振り返る。そこにいたのは他でもない、碧だった。
「あ、碧! お前、探したんだぞ!」
「どうだか。さっきまでずっと望海望海って言ってたじゃん」
「あ、あれはだな……。そりゃ目の前で望海がいなくなったんだからさ」
「ふふふ、冗談冗談」
「ともかく、無事でよかった……。でもなんでこんなことをしたんだよ」
「それはさ……、やっぱりボクもみんなの役に立ちたかったから」
「バカ野郎! それでお前がいなくなったって俺たちは喜ばねえんだよ!」
「……そうだよね。ごめん」
「昨日、言ったじゃねえか! お前は俺たちの大事な友達なんだって。望海のことも大事だけれど、それと同じくらいお前のことも大事なんだ。だから勝手にいなくなるなんてやめてくれよ……」
そう言うと、碧は
「分かればいいんだよ。……さ、行こうぜ」
「拓海。ボクはここから出られない」
「どういうことだよ」
「あの女の子の悩みを聞いてあげて。あの子の悩みはまるで、ボクが昔悩んでいたのと同じようなものなんだ。あの子の記憶は、ボクの記憶に類似する」
「じゃあ、お前、少し思い出したのか……? 過去のこと」
ゆっくりと碧は頷く。
「うん。だから余計に感じるんだ。……あの子も苦しんでるんだって。あの子が苦しんでる限り、この神隠しは続くんだと思う。だから、お願い。拓海、あの子を救ってあげて」
「碧……」
まるで、それは自分を救ってくれと言わんばかりの言葉だった。だからだろうか、すんなりと次の言葉は口から出てきた。
「……分かった」
「ありがとう。……やっぱり拓海は頼れるよ」
望海のようなセリフを言う。俺は、振り返って闇の中を歩いて行った。
なぜか、その先に出口があると知っているかのようだった。俺は、闇の中を歩いていく。
――たっくん、私はここにいるよ。
「――望海!」
声が聞こえた。どこからか分からないが、間違いなく。俺は、その声のする方へ、歩いていく。
「待ってろ、望海! 今行くから!」
俺は走りだした。何も見えない闇の中で、ただがむしゃらに、走り続けた。
「望海!」
一気に世界が光に包まれ、元の色彩を取り戻す。
初め、何が起こっているのか分からなかった。さっきまで、暗闇の中にいたというのに、目の前に広がっているのは先ほどと同じような森だった。さっきと違うのは、先が暗くて見えないということだ。しかも、雨が降っていない。
「たっくん!」
俺の横で語りかけるその声も、夢の中で聞いたものだ。
でも、夢じゃなかった。
「望海! よかった、やっと会えた……」
俺は、心配そうに俺の顔を覗き込む望海を抱きしめる。
「ってあ、ご、ごめん」
そして慌てて離れる。望海はそれでも、笑っていた。
「やっぱり、たっくんが来てくれると思ってたよ」
「そりゃ、俺はお前を守るって約束したからな」
そう言うと、屈託のない笑顔を浮かべる。その笑顔を見て、俺は確信した。
「望海……、記憶が……」
「うん、戻ったよ。……ごめんね、心配かけて」
「ううん、でも、よかった。……おかえり、望海」
「うん、ただいま」
いつまでもそんなやり取りを続けるわけにもいかず、俺たちは先を見据える。
「でも、ここはどこだ?」
俺は辺りを見渡す。一本道というのは変わらないものの、先が暗く閉ざされていてよく見えない。
「前も、私はここに飛ばされた。たっくんは、何か黒い穴みたいなところから飛び出してきたんだよ」
「やっぱりアレがここに繋がってたのか……」
その時、例の声が頭の中に響き渡る。
『本当に、よく分からないよ。君は。――拓海』
「俺の名前……? っていうかお前こそ、俺にはよく分かんねえよ」
『ただ、ボクは遊びたいだけだよ。一人ぼっちで寂しくここにいるしかなかったボクを楽しませてくれたら、それでいいんだよ』
「なあ、お前さ、本当にそれだけでいいのか? 何か、他にやらないといけないことがあるんじゃないのか?」
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