第4話
俺の家の戸を叩く音が聞こえたのは晩ご飯を食べ終え、食器の片付けをしている頃だった。
「今開ける」
俺が戸を開けると、そこに峻が立っていた。だが、それも予定通りだ。先ほど峻の家に電話したら、ちょうど俺と望海に話をしに来るということだったらしい。
「よっ」俺が言うと、峻は小さく「うす」と言って入ってきた。
「お邪魔します」
そう言って峻は家へと上がり込む。すると、望海が
「あ、峻くん。こんばんは。私とも話しにきたの?」
「ああ、そうだな。仕事中に申し訳ない」
峻が言うと、望海は自分の姿を確認し、「あー」と言って手を横に振る。
「ううん、家事のことは気にしないで。たっくんと峻くんが話している間に終わらせちゃうから」
「そか」
「峻、俺の部屋で話そう」
そう言うと俺は峻を二階へと案内する。
「拓海の家、久しぶりだな」
「それもそうか。……二年ぶりくらいか?」
「バカ言え。さすがに一年くらいだ」
あれ、そうだったっけ? などと思いながら自分の部屋へと進む。
「相変わらず記憶力に欠けるな、お前は。……だけど、あの時はえらく昔のことを覚えていたらしいな。奈津から聞いた」
あの時、というとたぶん「神隠し」の現象時、俺と奈津が二人になったときのことを言っているのだろう、俺もあの時は確かにえらく昔のことを思い出せたと感じる。
「まあな。でもお前たちの方が早かったじゃねえか」
聞くところによると、峻たちも同じような地形の場所に飛ばされていたらしい。俺たちが飛ばされた場所との関連は分からないけれど基本的な原理は変わらず、ひたすらまっすぐ進むことで元の場所に戻れたらしい。
「そりゃあお前と俺を一緒にするな。出来が違う」
「むー、なんかムカつく言い方だな……」
確かに俺の数倍早く全てのことを結びつけた峻はさすがだと思うけど。
「……まあ、俺はそういう担当だっていうのは昔から自覚していたからな」
そう。それが俺たちの中での峻のポジション。俺や奈津が暴走しないように、ストッパーとして働き、さらに問題事で詰まってしまったときに解決へ導くきっかけを作るのもまた、峻だった。
「お前がいなきゃどれだけ大変か、俺もあの時理解したよ……」
「だけどな、拓海」
「ん?」
「俺は、そんな自分の立ち位置も嫌いじゃなかった。でも、お前みたいに感情に任せて突っ走りたいと思ったことが幾度もあったことは嘘ではない」
「峻……」
意外だった。いつも冷静に判断してくれて、それを当然のように行っているのだと思っていたが、そんなことも思っていたのか。
それもまた、俺の知らない一面なのだろう。
「だから、お前が感情に任せてもう一度雌川島に行こうとしたとき、俺もついて行きたかったんだ。でも、そんなことをしても意味がない、と感情を抑えてお前のことを止めた」
数日前、一人で雌川島に乗り込もうとした俺を止めた峻に、そんな葛藤があったなんて。
「お前が望海のためにならなりふり構わないとの一緒だ。俺だって、あいつのためなら何だってする覚悟はできている」
俺が思っていた以上に、こいつは感情的な人間なのかもしれない。
「そっか……、だけど俺の言うことは変わらねえよ。俺は、やっぱりもう一度あの場所に行くべきだと思う。それしかあいつの記憶を戻す方法はない」
「……それはそうだろうな。神の御霊を鎮めることが七不思議の謎を解いたといえる条件になっていた。それはたぶんあの神社にいる神の御霊の怒りを抑えなければならないということだろうな」
「ああ、だから行ってぶっ飛ばす」
「ぶっ飛ばすって……、俺たちこの前ぶっ飛ばされただろうが」
「知るか。んなもん行ってみないと分からないだろ」
峻は、はあとため息をつき少し苦笑いをする。
「ほら、やっぱりこうなった」
「やっぱり?」
「ああ。こうやってお前が暴走して、俺がそれを止める。今までと変わらないよな」
「お前も、本当のところは何も考えずに行ってしまいたいってことなのか?」
「それは、そうかもしれない。……だけど、今のやり取りで思った。俺には、やっぱりできない。どこかで勝算だとか、見込みみたいなのを考えてしまう。自然と、だ。だからお前みたいにはなれない。……それでいいんだ。俺がいないと、お前らはどうしようもないだろ?」
そう言うと、峻はニヤリと不敵な笑みを浮かべる。こいつ、自分が必要不可欠だと分かってのこの笑みか。ホント、嫌なやつだ。
「……悪かったよ。でも、今後も俺の暴走を止めてください、お願いします」
「仕方ない。任されよう」
そう言うと、峻は立ち上がった。
「もういいのか? 結局これからどうするのか決まってないけど」
「だって俺が止めてもどうせお前、行くんだろ?」
「まあ、そりゃそうかもだけどさ」
「今回に関しては、俺も行ってみないと分からない気がするんだ。……それに、こうやって話して、みんなが一つになった時なら何か起こる気がするんだ。これは勝算でもなんでもない、ただの勘なんだけどな」
珍しく、峻が直感に頼って物を言う。だけど、峻が言うからにはある程度確信を持った直感なのだと思う。
そして、俺はそれを信じる。
「……ありがとな」
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