第二章 碧い瞳の少女
第1話
その美少女っぷりは言うまでもなかったのだが、どこまでも常人離れしたような顔立ちに俺たちはただただ驚くことしかできなかった。それに……、
「あの目がな…………」
俺は自分の席から、あっという間にクラスの人気者となり人だかりができる碧の席を見る。
「あいつの目がどうかしたのか?」
俺は自分の席で顔を上げると、峻がいた。
「なんだよ、お前いたのかよ。……あの転校生のとこいかなくていいのか?」
「いや、俺はやっぱりあの人だかりに混ざるのはちょっとな……」
全校生徒による(とはいっても六十名ほどだが)始業式が終わった後、ホームルームまでの空き時間に転校生の席へと
ここまで碧がいきなり歓迎されたのは、その
碧は、非常に珍しい島の外からの転校生だった。家庭の事情ということで、こちらに住むことになったらしい。そのため、雌川島から転校してきた望海のように歓迎されないということはなかった。
俺は碧に対して嫌な感情を持ったわけでもないし、峻のように人だかりに混ざるのが嫌だったというわけではない(あまり好きでもないけど)。
あいつのことを見てからずっと心の中にあるモヤモヤとした気持ちが、なぜか俺を自分の席に留まらせていた。
今日の朝見た、
「そんなことあるわけねえだろ……」
ていうか恥ずかしくてそんなこと聞けるはずもない。
「……拓海、さっきからどうしたんだ?」
峻は、俺のことをただただ
▽
始業式後のホームルームは早々に終わり、俺たちは昼前には帰宅の途につくことができそうだった。……ホームルームで寝てしまったのが浩美ちゃんにバレなくてよかった。
「あれ? たっくん、帰るの?」
俺が家に帰る準備をしていると、望海がひょこっと顔を
「そりゃそうだろ。用もねえのに学校いる必要なんてないしな」
「碧ちゃんの所に一回も行ってないでしょ?」
また転校生の話かよ……、と俺はしかめっ面をしてみせる。望海は、俺の態度を不思議そうに見つめていた。
「どうしたの? あ、もしかして恥ずかしがってるの? 碧ちゃんすっごく綺麗だもんねぇ」
「そーゆーのじゃねえよ!」
「じゃあどうしてなの?」
「えー、それはなー」
碧が、俺の夢か幻覚か分からない現象に出てきた女の子と瓜二つだったからだ、なんて言えるわけがない。俺はしどろもどろして、「うー」とか「あー」とか適当に言っていた。
「どうしたのよ、あんたたち」
今度は奈津だ。ゆらゆらとポニーテールを揺らしながら俺たちの間に、机に肘を乗せながら現れた。
「たっくんが碧ちゃんのことを避けてるみたいでさ」
「避けてるわけじゃねえよ」
俺たちのやり取りを見た奈津は、頬杖をつきながら「ふーん」と言い、ニヤリとする。
「まあそりゃあね、碧は美人だから拓海がそんな反応を示すのも分かるっちゃ分かるんだけど。そんなに言うなら本人を連れてきてあげるわよ」
そう言ったきり、奈津は顔を引っ込ませてどこかに行ってしまう。
「いや、別に呼んでないんだけど……」
「諦めろ、拓海。奈津には通用しないだろ」
いつの間にか峻も俺の席にやって来ていた。手には鞄がある。
「おい、峻。奈津が来る前に帰るぞ」
「残念、もう来ちゃいました~」
ゲ、と思い振り返ると奈津と、奈津に引っ張られる碧の姿が見えた。碧の姿は俺の目には少々戸惑っているようにも見える。
「お、おい、奈津。ほら、天野さん、ビビってるだろ?」
「なーにが『天野さん』よ。初対面の人も呼び捨てする癖に。ほら、恥ずかしがってないで自己紹介くらいしなさいって」
そう言って奈津は、碧の背中をポーン、と押す。「わわわ」と言いながらつんのめった碧は、最終的に俺の目の前でストップした。
「たっくん、がんばれ!」
いや、何のがんばれだよ。っていうか、顔、近いし……。
碧は、俺の顔をまじまじと見つめている。……え、いや、なんでそんなに近くで見つめてるの? それにしてもこうやって近くで見ると意外と少年っぽいというか無邪気な感じで、セレブなお姫様って感じはしないな……。
「って、ななな、なんでそんなに見てるんだよ!? あ、天野さん!?」
俺は慌てて椅子をずらして、一歩分下がる。ついでに手をぶんぶんと振ってみる。特に意味はないけど。
碧は、何かを考えるような目で俺のことを観察し、やがて何かを納得したかのようにうん、と頷いた。
「……へ?」
「…………やっぱりそうだ」
「な、何が?」
碧の言った言葉の意味が俺にはよく分からなかった。何が「やっぱり」なのか、それを言ってくれないと――、
「拓海、ボクたち会ったことあるよね?」
――――は?
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