第2話

 日本列島から少し離れた位置に存在する離島の数々。それが天ノ島あまのしま諸島である。

 諸島となっているがその島々のほとんどが無人島であり、人は住んでいないし荒れ放題となっている。時々調査に入っているとかなんとか言っているがその辺のことは、俺にはよく分からない。


 そして有人島である二つの大きな島。それが俺たちの住む雄川島おかわじまと、対になる雌川島めかわじまである。二つは、双子島とも言われているくらい形がそっくりで、面積も人口もほぼ一致する。

 雄と雌。このネーミングをしたのは誰なのか知らないが、少なくとも夫婦の関係にしなくて良かったと俺は思っている。……っていうくらい、この二つの島の仲は悪い。


 いつからなのかは知らないし、何がきっかけなのかも分からない。だけど、事ある度に二つの島は衝突していた。もはや、とりあえず向こうの言うことは反対しておけばいいというくらいの空気が流れている。


 だけど、俺は雄川島に住んでいるのでそちらの立場から言わせてもらうが、雌川島の連中は何を考えているのかさっぱり分からない。この島々をデザートだか何だか知らねえが、遊園地みたいなのにしようだなんて計画を立てているらしいのだが、そんな馬鹿みたいなのもほどほどにしておけ、と思っている。


 まあ、その話は置いといて……。この島のことだ。雄川島にも雌川島にも、それぞれ小・中・高の学校が存在する。小さな学校であり、俺たちの通う雄川島高校の全校生徒は約六十名で、一学年はほぼ二十人程度だ。

 だから、小さい頃から同じ学年の奴とは長い付き合いだし昔馴染みとなっている。


 だが、その中でもこの四人だけは別だ。

 篠田奈津、楠見峻、牧瀬望海、そして俺、榊原拓海さかきばらたくみ。この四人は家が近いということもあって、いつものメンバーと化していた。登校も下校も一緒の四人組。いくら島がそれほど大きくないとは言っても、数キロも離れている奴らとはなかなか遊んだりもできずにいたため、自然とこの四人で集まることが多かったのだ。高校一年生になった今でもそれは変わらない。


 夏休みも最後の今日。俺が奈津の家に用事で訪ねた所、やーにぃが息巻いてやって来て言った。


「おい、拓海! いつもの奴ら集めろ! すっげえ面白い話があるからな!」


 後ろで奈津が思いっきり呆れた顔をしていたのは気になったが、その話には興味があった。それにしても、今年で二十六歳になるというのに、まだまだやーにぃも思考はガキだ。

 そこで七不思議に関する噂を聞いて、その話に食いついた望海が四人で雄川島の語り部、高原八雲たかはらやくもの元に話を聞きに行こうと提案したのだった。


「はあ、結局無駄足だったわねぇ」


 八雲の家からの帰り道、ため息をつきながら奈津が肩をすくめる。


「でもさなっちゃん、『神隠し』っていうヒントはもらえたし、これから何か分かるかもしれないよ!」


 あくまでもポジティブな望海はそう言って微笑ほほえむ。


「それだけのヒントじゃどうしたって何も分からないんだぞ、望海」


 峻がボソリと言うと、望海の表情が一転した。


「そっかー、そうだよね……。峻くんが言うと、なんだか本当に無理なように聞こえるよ」


 それ、どういう意味だ? 俺だと嘘っぽいっていうことか?


「……まあ、完全に無理だと決まったわけじゃないけどな。これから色々と調べてみないといけない」

「峻、どっちだよ」


 俺はそう言いつつも。峻がいきなり意見を変えた気持ちもよく分かった。望海のあんな顔を見せられちゃあな。


「うるさい、そろそろ帰らないとマジで遅くなるぞ」


 何故か顔をそむける峻。と、それを見てニヤける奈津。どうせバレバレだから気恥ずかしいのを誤魔化す必要なんてないのに。


「あ、じゃあ私はここで別れるよ。ちょっと今日の夕ご飯の買い出ししなくちゃいけないから」


 望海が小さなスーパーの前でそう言ったので俺はごく自然に口を開く。


「じゃ、俺も付き合うわ。じゃな、奈津、峻」


 奈津は俺たちを何やら観察するような目で見て、その後やれやれ、と首を振って言う。


「ホント、あんたら夫婦みたいだよね」


 それを聞いた俺たちは顔を見合わせて首をかしげた。


「うーん、俺たちは夫婦っていうよりも兄妹っていう感じだと思うんだけど」

「え、兄妹なの? でもたっくんと私、同い年なのに兄妹ってなんかヘンだよね」


 奈津は、ふーん、と言いながら俺たちを眺めて言った。


「あんたら何年も同棲どうせい生活していてそれって、そんなもんなの? うーん、逆に意識しないのか……」

「同棲生活って……、何?」


 言うと、奈津はあー、と言って頭を抱える。何だよ、失礼な奴だな。


「要するに、一緒に暮らしているってことだ。まあ、普通に一緒に暮らしている、と言うよりも少し深い関係を指しているが」峻が補足する。


 それを聞いた俺は眉をしかめて言う。


「なんか、気持ち悪い表現だな」

「そうだよ。私とたっくんは事情があって同じ家で暮らしてるだけなんだから。それにおじいちゃんだっているんだし」望海も同調する。

「あぁ、そうだったわね。いや、ゴメン。変なこと聞いて」


 そう言って、奈津はヒラリと手を振って背中を向けて歩いて行く。何だよ、変なヤツ。


「じゃな、拓海、望海」


 峻もそう言って奈津について行く。その目が何か言いたげだったが……、気のせいか。

 二人になった俺たちはスーパーへと歩きだす。すると望海が突然立ち止まって俺の顔をじっと見つめていた。


「……どうした?」

「たっくん。今日の晩ごはん、何にしようか?」

「……って決めてなかったのかよ」


 エへへ、と望海が頭を掻く。

 ま、そういう所も望海らしいっちゃらしいか、と俺は感じるのであった。

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