概要
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!白い川の底に失われたものを見る冷静な瞳
アイヌ語で白く濁った川のことを「ヌブルベツ」と言うらしい。
「喪失」とは、いつまでも鮮やかな色ではなく、徐々に時間の膜に蔽われて、ヌブルベツの風情を醸すのかもしれない。
「蟻の枝」「蝉の死骸の日記」「これはひどい」「ミミのしっぽ」の四編から成る連作短編集。
一貫するテーマは「喪失」で、日記形式であったり、シナリオ風であったりと、語り口に富み、キャストも多様。
単独で読むことも出来なくはないけれど是非、順に通して読んでほしい。
「喪失」に伴う感情が、白い川底に沈んでいる。
読み進めるうちに、それに手を伸ばせるようになる。
不可視の感情が、あなたの掌に伝わる温度を、味わってください。 - ★★★ Excellent!!!奇妙なほど身に覚えのある、取り返しのつかない何か
緻密な構造を持つ四つの短編からなる作品です。それぞれの短編は単独でも面白いですが、通して読み終わって全体像を眺めると、さらに深い奥行きがあることがわかります。
端的な言葉で綴られる情景はどこか歪で、共感と不理解の境界を行き来する物語構造の繊細さに、夢中になって読み進めてしまいました。
短編集のそれぞれの主役たちに、そのまま共感できるかと問われれば難しい。そのはずなのに、描き出された空白は、ひどく身に覚えのある形をしているのです。
あらすじで語られている通り、テーマは「喪失」。
読み終えて、その単語を見返して、もう一度頭から読み直したくなる物語です。 - ★★★ Excellent!!!人の本質に肉薄する短編集
この四篇の物語、特に表題にして最後を飾る「ミミのしっぽ」は、一見して何の繋がりも無いように思われますが、そこで描き出そうとしているものはある種共通した、人間の本質なのだろうと思います。
個人的にはより繋がりの明瞭な前三篇が好みで、中でも「これはひどい」の作中にある舞台劇などは、そのエンタメ性、露悪性など、このままどこかの劇場で上演されていたら凄まじい反響を呼ぶだろうと思える代物です。僭越ながら、「どこかに持ち込めば良いのに」などと思ってしまいました(笑)
「ミミのしっぽ」は最も難解かつ風味に妖しさを残しつつも、叙情的な余韻を読者に与え、単品でも十分に素晴らしい前三篇を結ぶに相応しい傑作で…続きを読む - ★★★ Excellent!!!純文学を食わず嫌いしていた私。触れて、惹かれた。
正直私は、純文学? なにそれおいしいの? って人間です。
この作品を読み始めたのも、なんだか可愛いタイトルだったのと、短編集なので、のんびり読めばいいかな、という軽い気持ちで読み始めたのです。
実は、作品の伝えたいことを読み取れているかも自信がありません。
しかし、淡々と紡がれる物語の中の、激しくどこか歪な感情が、次を読みたいと思わせてくれました。
楽しい話ではなく、人間の汚い部分に触れている、と言ってもいいようなお話であるのにも関わらず、目をそらしたくない、そらせないという様にこのお話に入っていきました。
純文学と言えば、難しい文章で書かれているんじゃないの? というイメージでしたが、…続きを読む - ★★★ Excellent!!!カクヨムで読んだ中で、もっとも「すごい」と思った作品の1つ
「蟻の枝」「蝉の死骸の日記」「これはひどい」「ミミのしっぽ」という4つの短編で構成されているんですが、それぞれの話が象徴的な場面の連続になっていて、表層に描かれていることより、もっと深い何かを伝えようとしていると感じます。
たとえば、「蟻の枝」は一見すると、子供の頃のかくれんぼの話、蟻地獄に蟻を落として遊んだ話、みんなで見た上映会の話、死んでしまった生物の墓をつくった話……など、懐かしさを誘う情感あふれる短編ですが、何気ない場面を積み重ねて暗示されるのは、エロスとタナトス、自己愛と対象愛といったフロイト的な思想です。
この作者さんの作品を『幻想を泳ぐ魚たち』『ミミのしっぽ』『アスコラク』…続きを読む - ★★★ Excellent!!!「君」と「彼」の間にいる猫のミミはなぜ消えていくのか?
「喪失」をテーマとする連作短編で、「蟻の枝」「蝉の死骸の日記」「これはひどい」、そして表題の「ミミのしっぽ」という4つの話から成っています。
それぞれを独立した話として読むこともできますが、4編を読み通したとき、パズルが完成するように大きなメッセージが浮かび上がってくるように感じました。
正義と利己心、虐待の根源にあるもの、自己と他者……。
簡単には答えを出せない問題について、象徴的で魅力的な場面をいくつも組み合わせることで、押しつけがましくなく考えさせていく。そんな小説だと思います。
読んでいると心がソワソワして、でも、読むのをやめられない感じです。
個人的には「蟻の枝」の最後の…続きを読む