魔性の口上が誘うのは、「ナツ」の物語。美しいピルエットを披露するも、彼女は身長の低さを悩んでいた。役者を目指すなら、身長があった方が損をしない。桜の幹に刻まれる印の位置を、ナツと一緒に溜息をつく。身長を測る行為が、どこか荘厳な儀式のように感じられるのは作者さまの技量の高さゆえか。目を引く些細な会話や、大人になりゆく少女の心のゆらぎの、鮮やかな様子と言ったら!ひたむきに思い焦がれた夢の先を刮目せよ!
これは一つの舞台芸術。ただ語り手の言葉に耳を傾け、心に浮かぶ舞台を観て、大団円を見届けたなら喝采して余韻に浸りましょう。素晴らしい観劇を体感できること請け合いです。
「軸がブレてる」二人は、背を比べる。ロミオは一八三センチ。ジュリエットは一六六センチ。プリンシパルの身長規定はシビア。ああそれでも。微塵も軸のぶれない見事な回転(ピルエット)!機械仕掛けの神はいないが、人生は劇的な展開へ。誰かのヒーロー、ヒロインにはならなくても、己が人生の主役(プリンシパル)は変わらない。コヴェント・ガーデンでお会いしましょう。