ミミのしっぽ

作者 夷也荊

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★★★ Excellent!!!

彼らには何かが足りない――だからこそ、その欠落を――埋め合わせるために――或る情熱に、憑りつかれている。暴力的な関係を――取り結ぶ、ということに――そして、惨たらしい悔悛を――忘却の彼方に――置き去りにする、ということに。

したがって、この情熱は――横溢することになる。――抜け落ちたものを、埋めようと躍起になって――破滅し、やがてもう――取り戻すことは、不可能になる。

★★★ Excellent!!!

純粋ゆえに残酷、熱い日差しの中での寒気。
オムニバス形式でありながら、一読者として感じたのはそんな全体像でした。
すべてが不思議と無限の時間にあった、幼少期の思い出。そんなものを感じさせてくれる、不思議な読書体験でした。

★★★ Excellent!!!

緻密な構造を持つ四つの短編からなる作品です。それぞれの短編は単独でも面白いですが、通して読み終わって全体像を眺めると、さらに深い奥行きがあることがわかります。
端的な言葉で綴られる情景はどこか歪で、共感と不理解の境界を行き来する物語構造の繊細さに、夢中になって読み進めてしまいました。
短編集のそれぞれの主役たちに、そのまま共感できるかと問われれば難しい。そのはずなのに、描き出された空白は、ひどく身に覚えのある形をしているのです。
あらすじで語られている通り、テーマは「喪失」。
読み終えて、その単語を見返して、もう一度頭から読み直したくなる物語です。

★★★ Excellent!!!

この四篇の物語、特に表題にして最後を飾る「ミミのしっぽ」は、一見して何の繋がりも無いように思われますが、そこで描き出そうとしているものはある種共通した、人間の本質なのだろうと思います。

個人的にはより繋がりの明瞭な前三篇が好みで、中でも「これはひどい」の作中にある舞台劇などは、そのエンタメ性、露悪性など、このままどこかの劇場で上演されていたら凄まじい反響を呼ぶだろうと思える代物です。僭越ながら、「どこかに持ち込めば良いのに」などと思ってしまいました(笑)

「ミミのしっぽ」は最も難解かつ風味に妖しさを残しつつも、叙情的な余韻を読者に与え、単品でも十分に素晴らしい前三篇を結ぶに相応しい傑作です。

★★★ Excellent!!!

あらすじだけでも面白いのがエンタメ。
あらすじではその魅力がまったく伝えられないのが純文学。
かなり偏った分類方法ではあるが、個人的には結構有効だと思っている。
そしてこの分類方法を当てはめると、今作は純度の高い純文学だといえよう。
なので内容紹介はしない。いや、できない。
その理由は読んで確認して欲しい。
きっと納得すると思う。

★★★ Excellent!!!

正直私は、純文学? なにそれおいしいの? って人間です。
この作品を読み始めたのも、なんだか可愛いタイトルだったのと、短編集なので、のんびり読めばいいかな、という軽い気持ちで読み始めたのです。
実は、作品の伝えたいことを読み取れているかも自信がありません。

しかし、淡々と紡がれる物語の中の、激しくどこか歪な感情が、次を読みたいと思わせてくれました。
楽しい話ではなく、人間の汚い部分に触れている、と言ってもいいようなお話であるのにも関わらず、目をそらしたくない、そらせないという様にこのお話に入っていきました。

純文学と言えば、難しい文章で書かれているんじゃないの? というイメージでしたが、その点に関してはとても読みやすく、しかし、美しい文章でした。
ぜひ読んでみてください。

★★★ Excellent!!!

「蟻の枝」「蝉の死骸の日記」「これはひどい」「ミミのしっぽ」という4つの短編で構成されているんですが、それぞれの話が象徴的な場面の連続になっていて、表層に描かれていることより、もっと深い何かを伝えようとしていると感じます。

たとえば、「蟻の枝」は一見すると、子供の頃のかくれんぼの話、蟻地獄に蟻を落として遊んだ話、みんなで見た上映会の話、死んでしまった生物の墓をつくった話……など、懐かしさを誘う情感あふれる短編ですが、何気ない場面を積み重ねて暗示されるのは、エロスとタナトス、自己愛と対象愛といったフロイト的な思想です。

この作者さんの作品を『幻想を泳ぐ魚たち』『ミミのしっぽ』『アスコラク』という順番で読んでいくと、よりそう感じるんですが、夷也荊さんは心理学、文化人類学、社会学、表象学といった分野の広い知識を持ち、ふだん意識されることのない社会や心の深層、構造を解き明かそうとしている、思想家でもある人だと思います。

また、そういった要素を抜きにしても、この短編集、特に「ミミのしっぽ」――幼馴染みと死に別れた故郷に帰る、2人が共有していたミミという猫が少しずつ消えていく話は、成熟に伴う「喪失」に胸打たれる、素晴らしい短編だと思いました。

★★★ Excellent!!!


ネットではあまり見かけない正統派の純文学を読めてとてもよかったです。

今のところ「蟻の枝」まで拝見しました。
夏の日差しの光と影が交互に眩しく当たるような文章で、突き放したような「わたし」の語り口が静かで美しかったです。

文中の「椿の葉を三枚ちぎって重ね、その上に雛を乗せて持ち帰ることにした」という色彩感覚がとても鮮やかで赤という色が黒の背景から浮き出るような写生が、作者さまにしかできない表現で、一枚の絵になっているところがすごいなと思いました。

また続きも読ませていただきたいと思います。

★★★ Excellent!!!

「喪失」をテーマとする連作短編で、「蟻の枝」「蝉の死骸の日記」「これはひどい」、そして表題の「ミミのしっぽ」という4つの話から成っています。

それぞれを独立した話として読むこともできますが、4編を読み通したとき、パズルが完成するように大きなメッセージが浮かび上がってくるように感じました。

正義と利己心、虐待の根源にあるもの、自己と他者……。

簡単には答えを出せない問題について、象徴的で魅力的な場面をいくつも組み合わせることで、押しつけがましくなく考えさせていく。そんな小説だと思います。

読んでいると心がソワソワして、でも、読むのをやめられない感じです。

個人的には「蟻の枝」の最後の場面がとても好きです。「君」と「彼」の間にいる猫のミミが少しずつ消えていく話も、とても感銘を受けました。

★★★ Excellent!!!

この物語は「喪失」をテーマに書かれています。
どれも淡々としているようでいて、実は深い沼底で息苦しく喘いでいる。また、何かを訴える情熱的なものを感じます。
『これはひどい』は、個人的に特に素晴らしく、好きだと思いました。「何だ、これは…」とタイトルが浮かんでくるようなお話です。冒頭にある、注意書きのとおりなのですよ(笑)。他のタイトルもどれも読後に「……」となり、また読み返したくなる。
そのような魅力が、この作品にはあると思います。

★★★ Excellent!!!

鮮やかに立ちのぼる情景と、克明に描き出された心の機微。
それらは、時に痛みを、胸が詰まるような息苦しさを伴って、心の奥へ奥へと迫りくる。

この喪失がもたらす動と静。
何度も読み返したくなる作品でした。



ありがとうございます!

★★ Very Good!!

 対象を突き放して傍観しているのにも関わらず色彩豊かな文章、多分それは書き手の言葉選びと形容の巧さによるものだろう。例えば、作中の「風が耳元で渦を巻いて音を立て、山裾まで広がる黄金の稲を揺らしていく。その光景は風に揺らめく草原の姿そのものだ。黄金の草原は米が実り、穂が刈られる間の短い間にしか姿を現さない~中略~稲よりも背の高い稗が所々に伸び、軽快に駆ける馬を髣髴とさせた。雲一つない空では、鳶が弧を描きながら独特の声で鳴いている。それに吊られて白いサギが一斉に飛び立った。」というこの箇所、彩りさえも指定された情景が、どのように運動しているかが読み手の五感を刺激しながら活き活きと描かれているのである。さらには三人称では文章が硬くなってしまうので、すべてを見通す不可視の不思議な猫を語り手にすることで文章を柔くリズミカルにすることに成功している。徹頭徹尾計算されたこれらの文章から、書き手のこれまでの読書量が非凡であることがうかがい知れる。

 ジュブナイル文芸と評したのは、作品の評価がこの世界観を誰に向けているかで変わるということだ。少年少女に向けられたもの、少なくとも二十代半ばまでの読者ならばこの作品にハマることができるはずだ。彼、もしくは彼女はそこに文芸を感じるだろう。故に、読者層を絞っているならばこの作品は成功している。 しかし三十も半ばの読者にとっては、幼い書き手の心象風景を達者に書いているだけのものにも捉えられてしまう。もしこれが作者の世界観の全力であるならば、もう少しの成長を(期待を込めて)切に望みたい。書き手には既に書く基礎力は十分に備わっているはずなのだから。


 ちなみに、私の近況ノートに人称についての質問がありましたが、本作は全て一人称で書かれていると考えて良いと思います。

★★★ Excellent!!!

『蟻の枝』生命に対して人は本来無力であることを、まだ知らない子どもの、無責任な残酷さ。『蝉の死骸の日記』淡々とつづられる記録の最後の一文の意味は。次の話と併せて読めば、秀逸。『これはひどい』演じられているのは事実か虚構か。それを読んでいるこちらは?『ミミのしっぽ』喪った悲しみとないまぜになった罪悪感の行き着く先は。ミミが象徴するものは?
登場人物たちの心を生きたまま取り出すような心理描写が、胸に迫ります。

★★★ Excellent!!!

蟻にとっての人間は、巨大な隕石かもしれない。向けられる死に抗うことは、かなわない。
しかし、蟻は人間などよりもずっとしたたかに、この地上を支配している。
自分たちを神だと思う傲慢な人間のことを、嘲笑っているのかもしれない。
生物の世話を熱心にしながらも、動物の死骸を見たり、蟻を殺すことに熱中する主人公。
一話目のこの小説は、淡々と綴られてはいるが人の持つ本質を、ざくりと切り取って突き付ける。

他の作品も、とても刺さってくる。
生死。人の持つ本質や業。それをまざまざと見せつけられる。
この作者の放つ鋭利な刃。お気をつけて読まれて下さい。

★★★ Excellent!!!

淡々と語られる文章からは、迫りくるように激しい感情がこちらの気持ちを抉るように表現されていました。
心の奥にくすぶる何かは、言葉にすることもままならず。
ただ、感情が熱く、苦しいほどです。
ミミのしっぽの後半では、グッと込み上げるものがあり涙をこらえました。
とても、素晴らしい作品です。
ぜひ沢山の方に読んでいただきたい。