白い川の底に失われたものを見る冷静な瞳

アイヌ語で白く濁った川のことを「ヌブルベツ」と言うらしい。
「喪失」とは、いつまでも鮮やかな色ではなく、徐々に時間の膜に蔽われて、ヌブルベツの風情を醸すのかもしれない。

「蟻の枝」「蝉の死骸の日記」「これはひどい」「ミミのしっぽ」の四編から成る連作短編集。
一貫するテーマは「喪失」で、日記形式であったり、シナリオ風であったりと、語り口に富み、キャストも多様。
単独で読むことも出来なくはないけれど是非、順に通して読んでほしい。

「喪失」に伴う感情が、白い川底に沈んでいる。
読み進めるうちに、それに手を伸ばせるようになる。
不可視の感情が、あなたの掌に伝わる温度を、味わってください。

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