ミミのしっぽ

夷也荊

第1話「蟻の枝」①

 足が痺れていた。

 息を吸うと、苔と汗のにおいが滲んだ。蝉の大合唱を無視するように、しゃがみ込んだまま地面を見つめる。杉林の中にぽっかりと開いた境内の上空を、烏が飛んでいく。

 わたしは社の裏にいた。

 苔生した緑色の境内とは裏腹に、人目につかないこの場所は乾燥して灰色になった砂地がむき出しになっている。

 今、ここに人の気配はない。

 静謐さと杉のざわめきを湛えた境内は、いつもとは違った顔をしている。

 まさに侵してはならない、神域なのだ。

だが、ここには神域には不釣合いなプレハブ小屋がある。境内からは見えないが、社の裏に回ろうとすると丸見えになる。自炊設備のあるプレハブの横にはゲートボール場まである。老人たちの憩いの場だ。誰からと言うわけでもなく集まった老人たちが、ひとしきりゲートボールを楽しんだ後、小屋で茶を飲むのだ。そして境内では子どもたちが「かくれんぼ」や「だるまさんがころんだ」をして遊ぶ。広い境内は、子どもたちの格好の遊び場でもあった。老人たちの呑気なおしゃべりと、子どもたちの嬉々とした笑い声。これがこの神域の日常の姿だった。

わたしも、日常の境内では友人たちとよく「かくれんぼ」をした。わたしは社の裏に隠れるのが好きだった。特に死角になるわけでもなく、鬼が裏に回ればすぐに見つかるその場所に、わたしはいつも身を縮めていた。だから鬼は、毎回同じところにいるわたしを、一番初めに見つけた。

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