第21話「これはひどい」⑩

一呼吸も置かない台詞のやり取りに、わたしは疲れを感じていた。しかし疲れたと思った頃には二人の男は舞台にいない。ただ、疲れと吐き気、そして女性と老婆の関係だけが観客に残される。

 観客たちが帰り始めた。「観客」たちも舞台袖に消える。誰もがこの劇の題名を口にしたげだったが、ほとんど無言のまま退場していった。

 舞台に緞帳が下りる。

 わたしは最後部の座席から、舞台を見ていた。

緞帳の隙間に、蝉の死骸が転がっているのが見えた気がした。

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