第26話「ミミのしっぽ」⑤

昔、まだ川に堤防ができていなかった頃の話だ。大雨が降って大洪水が起こり、町中が水に漬かった。その水の量はすさまじく、川から離れたところでも大人の腰の高さまであったという。人々は高台にあった校舎に避難していたが、しばらくして水が引くとそれぞれの家に帰っていった。

 この地区に住んでいた一人の老婆も、その中の一人だった。ただ彼女は自分の家が心配で急ぐあまり、途中で疲れて座り込んでしまった。しばらくして立ち上がろうとすると、休んだはずなのに体が重い。まるで誰かを背中に背負っているようだ。しかし老婆が現在の地蔵堂のあたりに来たとき、背中の重いものが突然消えて体が楽になった。

「ありがとう」

後ろで誰かがそう言ったので老婆が振り返ると、そこには子どもに乳を与える地蔵の石像があった。これは川上の寺にあったものだと後に明らかになったが、老婆の話を聞いた住職は「地蔵様がそこへ行きたかったのだから」と地蔵を現在の地蔵堂に祭ることを勧めたという。

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