第11話「蝉の死骸の日記」④

九月一日

 日記を書かずに月が替わってしまった。しかし9月は過ごしやすい季節だ。朝夕は涼しく、晴れた日でも湿気がない分暑さを感じなくなった。ただ、やはりまだ日差しは肌に痛い。

 もう、蝉の声はしない。夜には蛙の声ではなく、虫の音が聞こえる。夏はもう終わったのだ。

 しかし、わたしの家のバルコニーにはまだ蝉の死骸があった。少し前まで道路や病院の窓の下にも蝉の死骸があったが、今はもうない。時々、道端で茶色の翅が散乱しているのを見るくらいだ。

 病院の蝉の死骸は誰かが片付けたのだろう。これも土に還らない間違った死だ。

 おそらく、ごみと一緒に捨てられ、燃やされたのだ。可燃ごみとして。この地区の虫の死骸は可燃ごみに分類されているから、間違いない。


 わたしもそうすべきだろうか。これはもう死骸ではなくて、ごみなのだろうか。


九月二日

 家の屋根を補修することになった。古い家だから時々業者に頼んでいる。今回は補修といってもお金がないから屋根のペンキを塗り直すだけだ。その際、バルコニーから業者が出入りする。

 虫の死骸や蜘蛛の巣をとって、少しはきれいにしなければならない。

 わたしはバルコニーを箒で掃き、手すりを雑巾で拭いた。そのとき、虫の死骸も砂もゴミも塵取りに掃きいれて、可燃ごみの袋に入れた。使い古しの雑巾もその中に入れて、袋の口を縛った。

 蝉の死骸も、もうこれでなくなった。ルールを破ることになったのは残念だけど、事の成り行きという点ではこれも自然な流れだ。仕方がない。

 蝉の死骸は他のごみと一緒に燃やされるのだろう。生き物の死骸としてではなく、ごみとして。

 これがわたしの家を死に場所に選んだ蝉の本当の最期だ。

 これは間違った死だった

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