第14話「これはひどい」③

 三角コーナーをベッドの上に載せる女性。

 高く持ち上げた茶碗を三角コーナーの上でひっくり返し、老婆に見えるように中身を捨てる。

「食べ物は粗末にするとばちが当たりますよ。茶碗にご飯粒を残すと目が見えなくなりますよ。世の中には毎日ご飯が食べられなくて死んでいる人がいますよ。食べ物は何かの命を犠牲にして私達を生かしてくれるので感謝しなければなりません。材料が届くまでに関わった全ての人に、料理をしてくれる人に、感謝していただきますとごちそうさまを言います。お腹いっぱいに食べられる私たちは幸せですね」

女性は老婆の耳元で、この台詞を一息に大声で言う。

咳が止まらない老婆。

 女性は三角コーナーと食器をお盆に戻す。

女性は無表情のまま登場時と同じように大きな足音を立てながら舞台袖に消える。

 女性はすぐにペットボトル入りの水を持って舞台に戻って来る。

やはり足音が大きい。

女性はむせている老婆に水を飲ませる。

この間、女性はペットボトルを老婆の口元から離さない。

咳き込む老婆。

女性はペットボトルから老婆の口へ水を流し続ける。

咳き込む老婆は、体を痙攣させて大量の水を吐き出す。

女性はペットボトルの口を閉める。

「水は貴重です。安全な水がただで手に入る国はわずかです。多くの国では透明な水が手に入りません。何キロも水を汲みに家と水汲み場を往復する子どももいます。私達は恵まれていることを認識して生活しなければなりません。しかし水がただなのもいずれ終わります。今は石油を巡って戦争をしていますが、近いうちに水を巡る戦争が起きるでしょう。石油の代替資源は作れるかもしれませんが、水の代替物は作れないでしょう。私達は幸せです」

女性はまた老婆の耳元で、台詞を大声で一息に言う。

耳を塞ぐ仕草をする老婆。

老婆の腕は耳元まで上がらない。

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