第8話「蝉の死骸の日記」①


八月三日

今朝、窓の方からジジジッと妙な音がした。誰かが外で何かしているのかと思ったが、そうではなかった。

音は、網戸にぶつかるガツン、ガツンという音に変わった。

何だろう、と窓を開けると、蝉が落ちていた。腹を見せ、翅でバルコニーの床を打ってホバーリングしていた。

何故か、観察してみようと思った。


八月四日

 今日も朝から暑苦しい。もう窓から音はしない。

 この辺りは烏が多く、家の窓にも顔を覗かせることがある。

 あの蝉は、もう烏か何かに食べられただろうか。

 まだいた。

だが、さすがに昨日と同じ様子ではなく、干からびたように見えた。

 そういえば、あの蝉の名は油蝉というらしい。


八月五日

 とにかく暑い一日。蝉はやはり同じ場所にいた。いや、あった、というべきだろうか。バルコニーの手すりの下で、壁に寄り添うように転がっている。

 もしかしたら、この蝉の死骸はずっとこの場所に居続けるのではないだろうか。

 そんな気がした。

 今日は暑いせいか、蝉の声までやかましい。


八月六日

 今日も蝉の死骸はあった。烏はあんなに多いのに、見つけられないのか。まったく、人生の最期にこの蝉は悪あがきをしたものだ。

 自分の体を人間のバルコニーへ隠して死ぬなんて。愚の骨頂。これはいけない。

 自然のサイクルからこの蝉の死骸は外れている。

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