第5話「蟻の枝」⑤

 足が痛い。

 汗は冷たさに変わり、蝉の声は、もうすぐ蛙の大合唱に代わる。しゃがみ込んだまま、地面にある無数の窪みを見つめる。杉林の中にぽっかりと開いた境内の上空を、烏が騒がしく飛び交う。

 わたしはまだ、社の裏にいた。

杉の小枝を手にしてしゃがみ込み、一つの窪みを凝視していた。わたしの視線の先には、窪みから必死で這い出そうともがく一匹の蟻がいる。だが、蟻が必死になってもがけばもがくほど、砂が崩れて六本の足をすくう。前足を滑らせて窪みの中心にひっくり返った蟻が砂に飲み込まれる寸前で、わたしは小枝を窪みに差し入れて蟻を助ける。

枝を登ってくる蟻をつまんで、また窪みに放り込む。また助ける。わたしはこの作業を飽きることなく繰り返した。もう四匹目になる。そろそろこの蟻も、体力の限界だった。蟻は枝にしがみつくことができずにそのまま砂の中に埋もれていった。わたしはまた蟻の行列から一匹つまみ出して、窪みの中に放り込んだ。

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