第35話「ミミのしっぽ」⑭(最終話)
君は彼を置き去りにしたと思った。そして、故郷も家族も置き去りにするのだと思った。しかしそれは間違いだった。
――にゃぁおっ。
ぼくは、君の目の前で鳴いた。しかし君は視線を泳がせ、首をめぐらせた。体を捻り、後ろを振り返ったり、ぼくの体の上を歩いたりした。
「ミミ、ミミ」
君はぼくを探したが、やがてあきらめた。もう君にぼくの姿は見えなくなってしまった。まだ声は聞こえるようだが、もうすぐぼくの声も君には届かなくなるだろう。
「さようなら、ミミ」
君の小さな囁きのような声は、風がさらっていった。地蔵堂の赤い屋根が米粒ほどにしか見えない、黄金の海の真ん中で、君はいつまでも立ち尽くしていた。
「この猫、耳がない」
「じゃあ、この猫の名前はミミだ」
君たちがぼくをそう名づけた。
だからぼくは、尻尾のない君たちこそを「尻尾」と呼ばなければならない。
ミミのしっぽ 夷也荊 @imatakei
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