森新児

一読して爽快感を感じた。 タイトルに「強欲」とあるが、本作は人間の欲望（この場合食欲）を肯定的にとらえている。 映画『セブン』で人間の欲望は罪とされていたからまさに真逆だが、自分は…続きを読む

一人の敏腕警察官（？）のもとに五人の異能持ちが集められる。 市井に暮らす彼らはそれぞれ「聴覚・味覚・嗅覚・触覚・視覚」が異様なまでに優れた一種の超能力者である。 『七人の侍』の昔…続きを読む

守護天使イゼル・ア・ムーナの教えは 「勝者が絶対正義」「敗者は絶対悪」 という苛烈なもの。 この教えに従えば世の中の99.9%の人間は悪になる。 果たして主人公のヴァルターは騎士の…続きを読む

本作は自分にとって今年カクヨムに発表された短編のベストワンである。 もう一つベストがあってそれは秋犬さんの『あったか漫画クラブ』である。 カクヨムはファンタジーやホラーが人気だが、…続きを読む

一読して圧倒された。 読んですぐレビューを書かなかったのは、自分の中の興奮を抑えるのに時間がかかったからである。 賭場の場面に興奮した。 自分も賭場を書いたことはあるが、オアシス…続きを読む

最初に「こったタイトルだな」と思った。 会瀬は「逢瀬」で、泡沫（の逆）は「泡姫」と「永遠」のダブルミーニングでこれはこっている。 若いサラリーマンとソープ嬢の恋愛で、反射的に「悲…続きを読む

「悪対悪」の物語である。 とくに第一話「残虐な女」の印象が強烈である。 二人の裸の男が戦っている。 二人は手をうしろ側で縛られている。 男たちは互いを噛んだり蹴ったりして殺そうと…続きを読む

身も心も美しい王妃サラをめぐる歴史ロマンスである。 夫のウォレム王は英雄だが、美しい妻があまりに人に愛されるのに嫉妬し、妻を石牢に幽閉する。 副侍従長のジュリアンは本来の使命を忘…続きを読む

ノーベル文学賞受賞の文豪ヘルマン・ヘッセのたいへん貴重なエッセイの翻訳紹介である。 本稿の筆者である与方藤士朗さんによると ①このエッセイは1962年12月10日発行の同人誌『人…続きを読む

第一話の 【「こんなエロい女、滅多にいないぞ！？　この身体を好き放題にしたくはないか！？」 したいかしたくないかで言えば、したい。】 を読んで爆笑し即フォローした。 しかし読…続きを読む

序盤は現代日本の負の要素を拡大したようなデストピア社会が描かれる。 「人身道具」と呼ばれる労働者は、今の日本の非正規労働者のようなものか。 格差社会や規制緩和が富裕層にばかり有利に…続きを読む

この小説には「原作」があるそうだが、そちらは読んでいない。 自分はゲームをまったくやらないのでダンジョン理解が乏しかった。 が最近立て続けに漫画の『ダンジョン飯』『葬送のフリーレン…続きを読む

タイトル通り遠い夏の日を回想したエッセイである。 カクヨムは異世界ファンタジーやホラーが人気だが、エッセイも逸品が多く、中でも本作は強い印象に残った。 「僕」はいとこのだいちゃん…続きを読む

カミュの著作で有名になったシーシュポスの神話は「終わりなき永遠の罰」を描いている。 神をだました罪でとらえられたシーシュポスは大きな岩を山頂に運ぶ作業を強いられる。 やっとの思いで…続きを読む

読みながらあったか漫画クラブのモデルについて考えた。 連合赤軍？　それともオウム真理教？ あるいはキャンパスに大勢たむろしていた政治サークル？ 主人公の女子大生がリアルだった。 …続きを読む

おもしろすぎてびっくりした。 主人公は推し活やってるだけなのに、なにかやるたび誤解されてとうとう悪の黒幕と見なされる。 実際世界も破滅の危機に陥る。 この「危機」に説得力があって脱…続きを読む

主人公の「俺」は三十歳のときアパートで孤独死する。 目を覚ますと俺はある王国の第六皇子ベルティアに転生している。 前世で孤独に死んだ俺は今度はそうなるまいと誓い、英霊の弟子となって…続きを読む

タイトルに「剣客商売」とあるように、読み始めてすぐこの小説が池波正太郎の『剣客商売』を参考にしているのに気づいた。 秋山父のさばけた態度や、秋山息子の世間知らずだがまっすぐな性格は…続きを読む

ふつうの転生ものはふつうの人間が英雄や王族に転生するが、本作は魔王が人間に転生する。 こういう設定、ありそうであんまり記憶にない。 主人公のカインド（親切、優しい）は十五歳になっ…続きを読む

半妖とはエルフと人間の間にできた子のことである。 「妖」の一字でわかるように、エルフの里では人間が差別される存在なのだ。 そもそも人間がエルフを虐待し、山に逃げたエルフがひそかに自…続きを読む

若いころ古い映画が好きでよく名画座に通った。 地元の名画座シネロマンは地下にあった。 元はポルノ映画館だったが館主の趣味で名画座に変わり、高校生のころ学校をさぼってよく通った。 …続きを読む

「涙とともにパンをかじった者でなければ人生の本当の意味はわからない」 といったのはゲーテだそうだが『牛丼並盛：280円』を読んで、ひさしぶりにこの言葉を思い出した。 若いころ某ホ…続きを読む

読んですぐ 「これは木山喬鳥版『文字禍』だ」 と思った。 文字禍は山月記で有名な中島敦の小説である。 図書館でなにものかのヒソヒソ声を聞いた大王がそれは文字の精霊にちがいないと信…続きを読む

人工的に愛玩動物として設計された妖精のあだ名は「三日妖精（スリーデイズ・フェアリィ）。 主人公の女性優華の部屋で、妖精は目覚める。 その可憐さに読者の頬も思わず緩むが、妖精の美しい…続きを読む

自分は世代的にコインロッカーと聞くと反射的に「ベイビー（ズ）」を連想する。 本作のタイトルはベイビーではなく「アダルト」である。 かつてコインロッカーは赤ん坊＝生命を遺棄する場所だ…続きを読む

宇宙船リリィヴァレーン号は事故で乗組員がほぼ亡くなり、トラン・スモールマンがただ一人生き残る。 トランは孤独に耐えかね、地球ではタブーとされる「意志を持った人工知能」を作る。 それ…続きを読む

ゾンビを扱った初めての小説は大槻ケンヂの『ステーシー』と思う。 この小説も『ステーシー』のように、全編に渡って静かな哀感をたたえていて、読みながらドキドキした。 「残り～日」という…続きを読む

自分は五歳のとき事故で左目を失明していて、そのせいか風景を「平面」としてとらえる癖がついている。 風景の奥行きを感じ取れないのである。 こんなこといわないほうがいいのだが、美学生だ…続きを読む

おもしろかった。 作者の日間田葉さん（このペンネームがもう最高である）が自分の初めてのバイト体験や憧れた仕事、高校時代の学校でのバイト体験を綴って自分の半生を語っている。 スティ…続きを読む

斬一倍シリーズ第三弾である。 今回の敵役は妻子を殺された元役人の北谷武寧。 第三弾にして斬一倍に最強のライバルが登場してワクワクした。 北谷の武器は『亜空間斬轍』。 最速の刀法…続きを読む

砂漠の王国が舞台である。 かつてはなにもない貧しい国だったが、一人の女王が訪れ、さまざまな奇跡を起こして貧しかった集落を豊かな王国にする。 女王はオアシスの中心に城を築く。 城は…続きを読む

おもしろかった。 日本には古代から調伏できない「祀ろえぬ神」がいる。 国家は神の管理を神籠に命じ、管理できない神は神殺に処理させた。 これは「特級国家最高機密事項」とされる。 ……続きを読む

江戸時代の習慣である大名行列が現代に甦ったホラーである。 頭を下げれば問題ないが、頭を上げて通り過ぎる「何か」を見た者は頭を失って死ぬ。 要するに不敬の罪で罰せられて死ぬのだが、現…続きを読む

読んですぐ 「これは日本版ファイトクラブだな」 と思った。 サラリーマンの映児が「僕」で、ニートの基久が「タイラー・ダーデン」であろうか。 あるいは映児も基久も社会からのプレッシャ…続きを読む

主人公は65歳の元工場労働者黒澤。 黒澤は年金や社会保障削減を背景にした政府の「ローズカラー・プロジェクト」の被験者となり、定年過ぎても働くことになる。 仮想空間でスーパーマンにな…続きを読む

「創作落語」と銘打たれてなかったら絶対古典落語と勘ちがいしたと思う。 それほどの完成度の高さで、時間に洗われないと得られないような余裕と風格も感じた。 冒頭熊がご隠居に羊羹を要求…続きを読む

「気まずい」 「違うんだ、私のせいじゃない」 「すまない。ただの事故なんだが」 意図に反して切れ続ける蜘蛛の糸にとまどうブッダの台詞が一々おかしい。 蜘蛛の糸が切れるのは単なる事…続きを読む

主人公の西川は時代劇『将軍乱舞！』の世界に転生する。 西川が転生したのは悪徳役人でドラマでは最後に上様に成敗される。 西川は前世の知識を生かしなんとか身の破滅を逃れようとするが………続きを読む

『死神』はたいへん有名な噺で自分も何度か聞いたことがある。 最初はコミカルだった死神がだんだんぶきみな存在になり、最後にその禍々しさがはっきりあらわになってこわかった。 この小説で…続きを読む

中国でウィードマンという植物に寄生された人間が現れる。 ウィードマンは人々を襲い中国は全滅する。 ウィードマンは日本にも出現し、主人公の若者以外の人間はほぼいなくなる。 昨日から…続きを読む

部屋に三人の少女がいる。 少女たちはワンピースの色と同じシロ、クロ、アカという名前を持っている。 そこは孤島の家で、三人以外に老夫婦がいる。 三人は口を利かずテレパシーで会話する…続きを読む

主人公のゼナスは郷土の期待を背負って出征するが戦場で負傷し、大きな武勲をあげられず帰郷する。 彼を待っていたのは友人たちの侮蔑の声だった。 ゼナスは故郷を離れ帝国でしがない警備兵に…続きを読む

僕（小田島匠）の目を通して篠崎誠司という若きボディビルダーの人生が描かれる。 僕がワトソンで篠崎がホームズといった感じだが、自分は『あしたのジョー』を連想した。 ただし、あした～で…続きを読む

舞台は神奈川の中学校で季節は夏。 語り手の少女は北海道から転校してきたやさしい男の子に恋をする。 典型的な青春物の背景だが冒頭の一文 「明宏とわたしは、樹海でセックスをした」 …続きを読む

江戸川乱歩の『押し絵と旅する男』は絵の中の少女に恋した男の悲劇（？）を描いている。 伯爵家の嫡男バートンもある絵の中の少女に惚れる。 彼女に会うためバートンはロンドンからはるばる日…続きを読む

とくに二話のザイルパートナーがすごい。 ここに描かれたおぞましさや途方もない無惨さ、それに無慈悲さはクトゥルフ神話特有のもので、この恐怖の神話が作者の細胞レベルまで染み込んでいるの…続きを読む

『桜の樹の下には』は梶井基次郎の有名な掌品だ。 「桜の樹の下には屍体が埋まってゐる！」という冒頭の一文が特に有名だが、同じセリフを作中の登場人物玄馬と小一郎も口にする。 この（超）…続きを読む

ホラーというより伝統と風格を漂わせた英国の怪談を読んだ気分になった。 南米の森に生まれ育った「おれ」の語り口はかなり荒っぽいが、疲労と諦念をたたえた文体は完全にハードボイルドで、…続きを読む

「火星の達人」斬一倍シリーズの第二段である。 SF的な設定を背景に時代劇風の人間模様とバトルが展開するのは前回と同じ。 しかし今回のほうがよりハードボイルド味が増していると思った。…続きを読む

主人公の太田は誕生日の前日女性に振られる。 その女性に対し、太田は小説の最初と最後に 「あ、はい」 と同じ返事をする。 この二回目の「あ、はい」で笑った。 ちょっと「ざまぁ」の快感…続きを読む