本作で取り上げられるのは芥川龍之介『蜘蛛の糸』。天国から仏様が蜘蛛の糸を垂らし、亡者のカンダタが掴んで登ろうとするも最後は転落してしまう、あの有名すぎる文学作品です。
本作では『蜘蛛の糸』の続きのような形で物語が始まります。
主人公の仏様は慈悲の心でもう一度糸を垂らします。しかし再び切れてしまい、さらにもう一度試すもまた失敗。
何度も落とされるカンダタと地獄から見上げる亡者たちは疑い始めます。
「こんなに何度も騙し討ちのように落とされるのには、仏様の何らかの意図が潜んでいるに違いない」と。
実際のところ仏様はカンダタを落とすつもりは毛頭なく、ただ蜘蛛の糸の強度が弱いだけなのですが、オオカミ少年のごとく信用を失う仏様。果たしてカンダタの“推理”やいかに――。
というコメディタッチのミステリです。設定や展開からして垂涎ものですが、解決編で明かされるトリックも秀逸です。ちゃんと前もって明示されてたのに「うわ~やられた~!」ってなりました。
蜘蛛の糸だけでなく途中から他の芥川文学も混ざり始めてカオスと化す本作。おすすめです!
カンダタさん、このお名前にお聞き覚えがございますか?
しかし、このお話は、カンダタさんのお話ではありません。ブッダさんのお話なのです。
ブッダさん、さすが、ブッダさんです。
何をやっても実は好転。さすが、信じてもらっている人はすごいです。
ところが、自分に自信がなくなっていくのは、なぜかブッダさんのようで、彼は助けたい一心なのです。
何でしょう、このもどかしさ。
地獄の方々はブッダさんのおかげで喜びにあふれ、ブッダさんは反省し、そして……物語は。
明と暗に分かれていますが、みんなは幸せになっていく。
とにかくブッダさんが面白い。
ぜひ、読んでいただきたい小説です。
『蜘蛛の糸』
有名なお話ですよね。
この作品は、『蜘蛛の糸』のその後の、とってもコメディなお話。
とにかく面白いです。
頑張れば頑張るほど、亡者を救おうとするブッダさんの思わぬ方向へ、悪い方向へ転がっていく事態が止められない。
地獄では、カンダタを筆頭とする亡者たちが『蜘蛛の糸』が切れる理由について推理をめぐらせています。
その推理もどんどん変な方向に行き、推理について証言をする亡者も、
「ここでこの人が証言に出てくるんですかぁぁぁ」
とシャウトしたくなるような人ばかり。
そしてついには……
読んでください、面白いです!
「気まずい」
「違うんだ、私のせいじゃない」
「すまない。ただの事故なんだが」
意図に反して切れ続ける蜘蛛の糸にとまどうブッダの台詞が一々おかしい。
蜘蛛の糸が切れるのは単なる事故だが、地獄の亡者たちはそこにブッダのなんらかの意図があると思い込む。
カンダタが探偵役になり「ブッダの真意はなにか?」という答えがない難問に地獄の亡者たちは挑む。
そしてカンダタは理屈っぽいチベット密教徒が喜びそうなロジカルな推理を積み重ね、遂に答えを出してしまう(!)。
コメディだが正直ここはちょっと感動した。
ブッダは世界三大教祖の中で最も優柔不断な人物だ。
弟子のゴーディカがヨガの修行に失敗し、自殺したときも弟子を批判していない。
悪魔に弟子が自殺しようとしていると知らされると
「(ゴーディカのような男は)生命を延ばすことを期待していない」
と答え、さらに悪魔に死んだゴーディカの魂の所在を聞かれると
「迷いの生存に戻ることなく、ゴーディカは完全に消え失せた(解脱した?)」
と答えている。
イエスやムハンマドなら絶対弟子を批判している。
またブッダの返事が曖昧なので、チベット密教徒が数千年に渡って
「ブッダは自殺を肯定しているのか?」
と議論する事態も招いている。
ただ自殺した弟子をあからさまに批判しないブッダの曖昧さや優柔不断さ(?)に救われる人もいると思う。
若いころの自分がそうだった。
『オオカミ少年ブッダさん』はそんなブッダの優柔不断さも出ていると思った。
宗教をモチーフにしたコメディミステリーの逸品です。
ミステリーファンと芥川龍之介ファン、ならびにブッダファン(?)におすすめします。
亡者を蹴落としたことにより、蜘蛛の糸が切れて地獄に叩き落とされたカンダタ。
流石に1度の失敗でこの仕打ちはかわいそうだろうということで、
もう一度チャンスを与えるが、また蜘蛛の糸は切れ、会心したはずのカンダタは再び地獄に落とされる。
どうしてこうも、仏というものは人々に希望をちらつかせて地獄に叩き落とすのか!?
そうすることによって楽しんでいるんじゃないのか!?
勘繰るカンダタ。そこに、過去に似たような境遇をもつ少年杜子春まで現れ……
意に反して信頼を失っていく仏。
果たしてその結末は?………
……
……
……
……
……
……
……ところで、先生のアシスタントを務めている私からの極秘情報だが、
現在黒澤カヌレ先生は、この物語の続編も執筆中である。
信頼を失い、失意の中にいる仏は、失意の中、自身の後任を選んだ。
彼もまた地獄から地上に上がってきた男、ダンテである。
自身と仏とは生まれも関係もないダンテこそ後任として適任としたブッダだったが、
ダンテでさえも信頼されない。
なぜだろうと考えを働かせるうちに、それはダンテの出身地に問題があるのではないか?!という事実が発覚する!
フランス!?つまり『仏』じゃねえか! あいつもブッダの仲間だろうどうせ!
「違う!! 私はイタリア人だ! フランスとフィレンツェは関係ないんだ!!」
という話を執筆中であり、明日にでも投稿予定である。
先生の今後の活躍に期待しよう!!