素晴らしい青春のひと時を味わえたなあ、と読後しみじみと満足させられました。
主人公は「シネマ大橋」という古くからある映画館が間もなく閉館になることを知る。そして映画館を訪れた先で、「エマ」と名乗る少女と知り合う。
映画好きらしい彼女と共に、シネマ大橋で大量の映画を見る。
この感じ、すごくいいな、とこの段階で強く引き込まれました。
この空気、この関係性。文章を読み進めていく中でじわじわと胸の中に生まれていく充実感。「こんな時間を過ごしてみたい」と思わせてくれます。
一緒に映画を見て、映画の話に花を咲かせる。ミイラ映画(クソ映画)を見てつまらなさを堪能。そしてキューブリックの「2001年宇宙の旅」は「思いっきり寝るのが一番の楽しみ方」と豪語する。
最高かよ! と喝采を挙げたくなります。
「時短」という考え方が広まって、二時間を越える映画などは好まれなくなっている昨今。そんな中で「映画を見る楽しさ」をこんなにはっきり描いてくれる作品があることが、なんといっても嬉しくなりました。
「映画を見る」っていうことは、「その時間そのものを楽しむもの」なんだということを改めて教えられた気がします。日々の雑事は一切シャットアウトして、「映画を見る」っていうただそのことだけに時間を使う。そういう贅沢がいいんだよねえ、としみじみ思いました。
そして本作はそこに、不思議な雰囲気を持つ少女が加わるという。
そんな二人きりの時間が、最終的にどんな結末を迎えるか。
このラストの余韻がまた素晴らしい。爽やかさと切なさと。
映画館にはやはり魔法がかかっているのかもしれない。そんな「特別な時間」をこれでもかと活写してくれた作品。多くの人に勧めたい傑作です。