ヘルマン・ヘッセの(超)貴重なエッセイ

ノーベル文学賞受賞の文豪ヘルマン・ヘッセのたいへん貴重なエッセイの翻訳紹介である。
本稿の筆者である与方藤士朗さんによると

①このエッセイは1962年12月10日発行の同人誌『人間像』に掲載された。
②翻訳者は長年ヘッセと文通して交流があった文学者の四反田五郎氏。
③ヘッセの四つの小品の最初のエピソードが本エッセイ。
④本エッセイの翻訳許可の手紙を四反田氏に送った直後、ヘッセは亡くなった。享年85。

ということのようだ。
また本エッセイが載った同人誌『人間像』が国会図書館ではなく、広島の原爆ドームの南側にある原爆資料館の資料室でひっそり保管されていたというのもなにやら因縁めいていて興味深い。
ヘッセ全集にも収録されていない貴重なエッセイで、これを原爆資料室で見つけたときの与方さんの驚きと興奮はすごかったのではないか。

肝心のヘッセのエッセイだがこれがおもしろい。
最初の結婚の新婚時代の思い出で、田舎に家を借りたがなぜか予定した日に荷物が来なかったり、しかたなく別に宿を借りて田舎を散策したり、新妻が突然痛みを訴えたり、慌てて医者に診てもらうとこの医者が善良だがなんだか頼りない人でヘッセがうろたえる……など文豪らしからぬ人間臭いエピソードが続く。
若い二人が田舎を散策する様子はベルイマンの映画『不良少女モニカ』のようで興味深かった。


その後新妻の痛みは「坐骨神経痛」と診断される。
腰の痛みは現代ではノイローゼと診断される場合が多い。
この新妻も慣れない田舎暮らしや、大インテリのヘッセと暮らす不安からくる心労もあったのではないか……と妄想した。

ともかく貴重でおもしろいエッセイです。
ご一読をおすすめします。