シーン09 コメント
晩ご飯を済ませて、シャワーを浴びて、麦茶を飲みながら課題にとっかかる。これは明日までやから、急いで片付けなあかん。展覧会のことがなかったら、冷房の入ってる制作室でやりたかったんやけどなあ。そんなん言ってられへん。
でも、扇風機はむっちゃ快適や。すっごい静かやし。風の強さも微妙に調節できる。今日は昨日よりは涼しいし、窓開けて扇風機回せばエアコンなくても乗り切れるわ。
うっしゃあ! 二時間みっちり集中して紙模型が出来た。この前デザインルームで見た時にはなーんとなく気に入らんかったんやけど、悪ないわ。
やっぱこういうのって、テンション下がってる時にやるもんやないなー。わたしは絶対に手ぇ抜いてへん。自分でもいい出来やと思ってたもん。それなのに、すっごいつまらんように感じて。なんやろ。ばりばりに集中してたマギーがいたしぃ。やっぱコンプレックスなんやろか?
造形科言うてん、美大とかとはちゃうねん。しょせん専門やろ、そんなん何になるんやって、親にもセンセにもずいぶんがちゃがちゃ言われたけど、わたしのキブンはクリエートやった。それに受験やら、べんきおは要らへんかったんよ。
でも、キブンはあくまでもキブンや。わたしがなんぼ楽しいなあ思っても、わたしの生活を支える役には立ってへん。
もやもや。わたしの気持ちの置き場がないこと。楽しいことと生きてくことはちゃうってか? それは……なあんとなくつまらんなあ。
紙模型を分解して、ケースにしまう。ふう……。卒制、どないしよ?
◇ ◇ ◇
ぼけーっと。扇風機の羽がくるくる回るのを見てて。はっと我に返る。あかーん。ぼけぼけや。ペース戻さな。
あ。そうや。ブログにコメ付いとったなー。初コメや。楽しみぃ。誰やろ? どれどれ。いそいそとノーパソ立ち上げて、ブログにログインする。
そういや、この前アッコに突っ込まれたんよね。なんでスマホでやらへんのって。確かになー。いっぱい字ぃ打つわけやないし。撮るのも字ぃ入れるのも、今くらいの量やったらスマホいっちょでぜえんぶ足りるんよね。せやけど、クレイモデル作るんに3Dの描画ソフト使いたいからって、がんばっていいパソコン買うたんやもん。それだけに使うんはもったいないやん。画面おっきーから、画像とかさくさく見れるしぃ。
お、出た出た。コメ欄開いて、と。どれ?
『初めてコメントします。うわあ、リプリーズ懐かしいです! マスター元気なのかなあ』
誰や?
『しげの』
知らん。わたしの知り合いには、こんな苗字のやつはおらへんなー。まあ、しょせんハンドルネームやしぃ。でも青字やからゲストやなくて、ここの会員よね。プロフあるんかしらん。あらら。ほとんどプロフが空っぽやん。オトコかオンナかすら分からへん。
わたしのハンドルネームは、まんま『でんでん』やから、リア友ならすぅぐ突っ込み入るやろ。でもまじめなコメやから、そっち関係じゃなさそやね。なんとなく、オトコでわたしより年上っていう感じがする。ちょっと堅いっぽい感じぃ? おっさんか? もしかして。うー、判断材料少なすぎや。けど、ふざけたコメやないし、一応初コメやん。お礼言うとこ。
どりゃ。ぱちこん、ぱちこん、ぱちこん、と。
『コメントありがとうございます。わたしのブログの初コメでしたー。うれしいです。リプリーズね、閉店しちゃったんですよ。わたしも大好きだったので残念です』
うりゃ。コメント送信、と。うーん。読んだ人、がっかりするやろなー。わたしもがっかりやったから。
ふう。また汗かいてもた。べたべたや。もっかいシャワー浴びてこ。わたしは、画面開きっぱなしで汗を流しにいった。
◇ ◇ ◇
「ぷふぁ」
すっきりしたあ。ここんとこめまいが続いてるから、今日はビール止めとこ。麦茶を一気飲みして、もう一杯注ぐ。すぐに汗をかくコップ。パソにこぼさんようにしないとなあ。ティッシュを畳んでコップの下に敷く。
さて、終わらしとこ。ログオフしようと思って、何気なく一回リロードして。画面に目が止まった。
「あれぇ?」
返コメついとるやん。ハンドルネーム同じやな。しげのさんだ。なになに?
『ええーっ!? リプリーズ閉店しちゃったんですか? 残念です。いつ閉まったんでしょう?』
ううう、質問で戻ってくるとわ。予想外やった。返しとこ。
『ええと。十日くらい前です。ムードのある、いい喫茶店でしたよね』
んぺっ、と。わたしはちょっと気になって、少ししてからブログをリロードしてみた。え? まだなんぼも経ってへんのに、もうコメ返ってるわ。
『そっかあ……。もう一度行きたかったなあ。店の雰囲気が何も変わっていないので、かえって寂しいですね』
うわ。もう、コメ言うよりチャットやな。
『最後に行ったのはいつなんですか?』
ひひ。こっちも質問で返したろ。で、リロード、と。お、やっぱ、もうコメが付いとる。
『もう十年前になりますね。勤め先を退職した日に、マスターと長話したのをよく覚えてます』
もしかして、ていねーん!? ってことは、もう六十はとっくに過ぎてるやん。うわ、じいさんやったんか。コメが短いと、そんなん分からんわ。
『今は近くには住んでないんですか?』
ずりゃ。リロード。
『田舎に引っ越してしまいましたので』
へえー。それにしても、わたしのブログにどうやってたどりついたんやろ? だって、わたしは一度もリプリーズの名前をブログで出してへんもん。それと、一つ気になったことがある。リプリーズって、そんな昔からあったん? 確かにアンティークの多い、古いっぽい店やったけど。おっちゃんはそんなトシってこともなかったし。アルバイトの店員もちょくちょく入れ替わってた。見かけによらず、若い店って印象があるんやけどなあ。もしかして、このおっちゃん他の店と勘違いしてるんちゃうかなあ。でも、この画像だけでリプリーズやと言い当ててるしぃ。うー、なんか変。
『リプリーズの近くで働かれてたんですか?』
うりゃ。探り入れたろ。
『はい。もうなくなってしまったと思いますが、栄進堂っていう薬問屋に勤めてました。リプリーズが一番近かったので、よく昼ご飯を食べに行ってたんですよ』
知らーん。あの辺り、ビジネスビルばっかだからにゃあ。よっぽど大きなところやないと、分からんわ。問屋さんかあ。わたしは、なーんとなくすっきりしない感じを引きずりながら。でも、それ以上コメ続けるのもなあんとなくめんどいなあと思って。ログオフした。
ふう。韓ドラでも見よ。
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