シーン28 面接 パート2

 うーん。どうなんやろ。この感じやと、あんた要らん、すぐ帰れってことやなさそ。でもなあ。それと、ここがわたしにとって魅力的かどうかって言うこととは別やもんなあ。


 長考してた中村さんが、口を開いた。


「ええと、穂村さん。ちょっと立ち入った質問をします。答えにくいようやったら、ノーコメントでかまいません」


 は? なんやろ?


「今、籍入れてる入れてない問わず、同居されてる、もしくはその予定のカレシはいますか?」


 おおっとぉ! そっち系来たかあ。


「いえ、いません」

「カレシはほしないの?」


 ぐわあ。突っ込んできたあ!


「いえ、そんなことはないですけどぉ。なかなかいいオトコがおらへんもんで」

「わっはっはっは」


 楽しそうに中村さんが笑う。


「うちもね、その棚倉さんいうところほどじゃないけど、仕事の中身が多いです。結婚したとか、カレシに付いてく言うてあっさり辞められるとね、仕事がよう引き継げへんのです」

「あ、なるほど! 確かにそうですね」

「穂村さんは、そのあたりどのように考えておられます?」


 うーん……。


「今、カレシがおれへんので何とも言えへんですけど……。でも、カレシの都合で自分の生き方振り回されるのはイヤやなあと思います」

「ほお」

「甘いですかねえ」

「ははは。いやいや。しっかり考えておられるので、ええと思いますよ。オトコ、オンナ関係なく、自分の生き方どうするかは人生の一番大事なテーマやからね」

「はい!」


 中村さんは、そっち系の話をさっと引っ込めた。


「それと、何か趣味とか、してることとかあります?」

「そうですねー。買い物好きやし、音楽とかも好きやし、乗馬とかスキューバとかもしてみたいし、旅行も好きやし」

「おお、多趣味なんやね」

「でも、してみたいで止まってるもんが多いです。やっぱ、生活費稼がなあかんので」

「へえ。仕送りは?」

「ありますけど、ぎりぎりやので。うち、家が市内なんですよ。おかんに無理言って、下宿させてもらってるんです」

「そりゃあ……。よくお母さんが許してくれたね」

「バイトのこともあって夜遅くなるんで、割とすんなり」

「バイトの時間帯は?」

「シフトによりますけど、一番多いのは夕方五時から九時までですね」

「それ、ずっと?」

「夕食時のシフトに入ったのは、専門に行くようになってからです。高校の時は土日の昼と、時々夕方の八時までってところでした」


 がっつりバイトしてたことに興味持ったんやろな。中村さんが、どんどん突っ込んできた。


「それだけやってたら、お店から正規に働いてくれ言われへんの?」

「いやあ、店長にはマネージャーにするからどやって言われたんですけど。さすがにこれからもずっと皿運ぶのわ……」

「え? でも、マネージャーやろ?」

「あのどケチの店長が、そんな楽な仕事やらすわけあらへんですー。店長かて朝十時から日付け変わるまでぶっつけ働く人なんで」

「うわあ!」


 絶句してる。うひひ。


「さすがに付いてけへんですよー」

「すごい人やねー」

「はい。商売人としてはすっごい尊敬してます。ただ……」

「ん?」

「どうしようもないどスケベなんで」


 どたっ。中村さんがずっこけた。


「まあ、あらわスケベやから、いなしてますけど」

「ははははは」


 楽しそうに笑った中村さんが、ぽんぽんと膝を叩いた。


「いいねえ。あなたはタフやね」

「みんなにそう言われますぅ」

「いいことや。そうやなー」


 ちょっとの間黙っていた中村さんが、ぐっと体を乗り出した。


「穂村さん。私もちょいぶっちゃけ話をします。ちょっと聞いといてください」


 お? なんやろ?


「はい」

「うちみたいな小さいとこはね、営業や、事務や言うてもそれしかしません、やりませんじゃ済まないんです」

「なるほど」

「お客さんに営業かける時には、お酒の席も設けます。もちろん営業の連中が出ますし、会社相手の時にはコンパニオン頼むこともあります」

「はい」

「穂村さんは、いける口?」


 と言って、杯をあおる真似をした。


「ええと。そんなにつよないですけど、そこそこ飲みます」

「なるほど……」


 中村さんが、ふっと息を吐いた。


「さっき言った接待ね。お客さんからの希望で、事務の子も出せ言われることもあるんですわ」


 げ。


「そんなにしょっちゅうやないけどね。お客さんが気に入ったかわいい子、感じのいい子には、結構声がかかっちゃう。そして、お客さんにそれはあかんとは私らよう言われへんのです」


 そっか。なるほどなー。


「もちろん、お客さんの要求が理不尽な場合は私がガードしますけど、宴席に出せ言うのは断りきれへんことがあるんですよ」


 うー。むむむ。


「杉谷みたいなベテランならまず安心なんやけど、おばはん採ると仕事覚えさすのがしんどい。若い子は仕事飲み込むのは早いんやけど、さっき言ったようなリスクがある。だから、苦労してるんですわ」


 そっか。遊んでる子は、仕事まじめにせえへん。せやかて、かちかちの子やと宴会の時に保たへん。カレシのことを聞いたんは、それもあるんやね。


「今、穂村さんから伺った限りやと、穂村さんは条件をクリアしてる。タフやし、おっさんさばくのうまそうやし、長くバイトしてるってことは辛抱できて根性もある。ぴったりや。ただ……」

「はい?」

「最初あなたが言ったことがネックやね。自分のしたいことと仕事を分けて割り切って、私んとこの仕事に集中してもらえるか」


 うん。そこやな。わたしも、そこやと思う。


「この前クビにした子の代わりは、もう採用しました。大人しい地味な子やから、問題は起こさへんと思う。ただ、杉谷の後任がねえ。誰でもいい言うわけにはいかへんのですわ」


 うーん……。あそこまで完璧を求められるとなあ。しんどいわあ。


「まあ、杉谷のところはそんなにすぐには埋まらないです。もし、穂村さんが割り切る決心が付いたら連絡をください。うちの業務をさばく上では結構しんどいんですが、現有のスタッフでしばらく乗り切ります」


 うー。むむむ。こらあ悩むわあ……。


「いつまでにお返事すればよろしいですか?」

「そうやなあ。八月いっぱいまでにお返事いただければ」

「分かりました。本当にありがとうございます。こんなにしっかりお話聞かせてくださって、わたしの話も聞いてもらったのは初めてです。ほんま嬉しいです」

「ははは。棚倉さんとこは?」

「いきなり引きずり込まれて実技でしたから。話もくそもありませんでしたあ」

「わっはっはっはっ」


 中村さんが腹を抱えて笑ってる。


「まあ、それぞれのところでカラーがあるいうことやね。穂村さんの色がどこに合うか。まあ、ゆっくり考えてください」

「ありがとうございます!」



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