シーン43 再会

 市街を抜けた車は、古い民家が点在する田舎道に入った。国道を降りて集落の中をくねくねと通り抜け、山際の大きな農家みたいなところの前で止まった。


「うわあ!」


 わたしは、ごっつびっくりする。アッコもクリも、口をぽかんと開けて庭を見渡す。広い庭のあちこちに、木製のオーナメントが立ってて。それがめっちゃカラフルにペイントされてる。おとぎの国みたいや。かっわいー! ほんまに色使いが素敵やなあ。溜息出るわ。センセも、それを眩しそうに見回してる。夏の日射しに似合う、元気な色たち。


 おっとっと。まだ庭を見回しているセンセやクリたちを置いて、わたしは玄関の呼び鈴を押しに行った。でもわたしが呼び鈴を押す前に、扉がばたんと大きく開いた。


「あら。早かったね。おはよう、穂村さん」

「おはようございます、杉谷さん。今日はどうか一つよろしくお願いしますー」

「ほほほ。わたしで役に立つのかしら」

「いやあ、初めて見せてもらいましたけど、すごいですよー。あれがサンプルなんですかー?」

「そう。あくまでもサンプルやけどね。色が乗る素材なら何にでもペイントするから」

「うわお」


 しげのさんは、わたしの影になってて他のみんなはよう見えへんかったんやろ。突然かかった声に立ちすくんだ。


「シゲ! シゲやろ!?」


 わたしを突き飛ばすようにして、センセがしげのさんの前に立つ。


「おまえ、どこ行っとったんや」


 次の瞬間。センセは大泣きしながらしげのさんを抱きしめた。


「おま、生きとったんやな。嬉しいわ。ほんま、ごっつ嬉しいわ!」


 男泣きゆうんは、こういうんを言うんやろな。まるで、転んでしまった男の子が痛さを我慢しきれないでお母さんに抱きついたみたいに、センセはわんわん大声を上げて泣いた。


 最初呆然としてたしげのさんは。だらりと垂らしていた両手をおずおずと上げて、センセの背中に手を回した。その手でセンセのシャツをぐっと掴んで。それからぎゅっと抱き返した。両目から、次から次から涙をこぼしながら。


「のぶちゃん。ごめんねぇ……」


 もう……涙なしで見てられへん。無くした十年を超えて二人をつないだもの。それが何かなんて、言うだけヤボや。わたしは。愛情っていうもののすごさを思い知る。


 クリもぐすぐすいって泣いとる。アッコもこれで踏ん切りつくやろ。驚いたんは、マギーやった。どっちらけてるのかと思いきや、爆泣きしとる。あいつも……わけ分からんなあ。


◇ ◇ ◇


 感情のたかぶりが収まって。しげのさんは、わたし以外の人がなぜいるのか分からへんていう感じやった。


「あの、杉谷さん。済みません。こんなことになってしまって。でも、今日は教えてもらいたいことが色使いの他にもう一つあるんです。それで……」


 しげのさんは察したんやろ。観念したような顔で、わたしたちを見回して言った。


「外は暑いので、みなさんどうぞ中にお入り下さい」


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