シーン13 告白と宣言
うぎぃ。ぎづいー。隙間に三時間は今までの最長記録や。その反動のめまいは半端やなかった。トイレ行きたくても立てへんもん。頭ぐらぐらや。必死に這ってトイレいって、這って戻って来て。それから動けへん、口も利けへん。酒とダブルパンチのアッコは完全死人状態やったから、わたしのことを考えてる暇ぁなかったやろ。
一応朝七時に目覚ましかけたんやけど、起きれへんかった。二人して十時過ぎまで沈没してて、昼前にやっと少しマシになった。
「ぶひぃ。ぎづいー」
「ちょっと、でんでん」
「なんよ」
「あたしは分かるけど、なんであんたまで潰れてんの?」
「しゃあないやん。最近時々めまい出る言うたやん」
「治ってへんの?」
「治ってへんのよ。まあずーっとやないから、なんとかなるわ」
「なんか……心配やね」
アッコがこれまでしてた、ちょっと茶化したような言い方やなくって。ほんまに心配してるっていう感じで、アッコがわたしを見る。せやけど、ほんまのことは言えへんからなあ。
「わたしの心配してる場合ちゃうやろ。ったく潰れるまで飲みくさってから」
「ごめーん……」
しょげしょげ。
「まあ、やけ酒飲みたなる気持ちは分かるけどなー」
「……うん」
うつむいたアッコが、いきなりとんでもないことを聞きよった。
「でんでんはさ。エッチしたことあらへんの?」
こひつわー!
「しらふに戻ったとたんにそれかい」
ふう。
「高校の時に、付き合ってたオトコがおってん」
「うん」
「そいつと何度もしとるわ」
「……。今は?」
「きっついこと聞くなよー。カレシおらへんもん。ご無沙汰やな」
アッコは下を向いて、しばらく黙っていた。
「なんで、続かへんかったん?」
「カレシとか?」
「うん」
「そうやなあ」
わたしはその頃のことを思い出す。あんま、楽しぃなかったなあ……。
「今、しかなかったからかもしれへんね」
「どゆこと?」
「そん時は二人でいて楽しい思たんやけど、じゃあそれからどうすんのってところがなーんもあらへんかった」
「ふうん」
「あいつはエッチが好きやったんかもしれへんけど、わたしはそれはどうでもよかったんよ。それよか、もっと楽しいことを探したかったん。二人でさ」
「うん」
「そこが思いっくそズレてもうてん。なんぼも続かへんかった」
「そっか……」
アッコは。たぶんわたしらが思ってるほど軽くはないんやろ。でも、ふだん見せてる姿からはそれは分からへん。そうしてんのはアッコ自身やからしゃあないけど、わたしはなーんとなく悲しくなる。もっとええやつ探さんとあかんで。そんな二股、三股かけるようなクソ男やなくしてさ。ふう……。
◇ ◇ ◇
アッコはもっと潰れていたかったんやろうけど、わたしの部屋は日中はサウナ通り越してオーブンやもん。しんどかったら家で寝なおせー言うて、部屋から追い出した。
「でんでんはこれから、どないすんの?」
「ああ、ガッコ行って、野崎センセと話してくるわ」
「え? センセたらし込んだん?」
げし!
「いったあ」
ちょっと元気になった思たらこれや。
「ちゃうて。卒制のテーマ決めたからな。休み入る前にそれ知らせてこなあかん」
「え!? もう決めたん?」
「なにすっとぼけたこと言うとんの。わたしでも遅いくらいやで」
「げげー」
こひつ。なーんも考えてへんかったな。ったく。
よれよれのアッコと分かれて、コンビニで昼ご飯仕入れてからガッコへ行く。ちょうど午前の講義が終わったとこだったみたいで、生徒がぞろぞろエントランスに出てきてた。そこでクリに捕まった。
「うーす、でんでん。今日はおらんかったやん、どないしたん?」
「ううー、ちぃとな。昨日酔っぱのアッコをレスキューして、ついでにわたしも一緒に潰れてな。起きられへんかった」
「なに、迎え酒付き合ったん?」
「いや、めまいがしてん。ここんとこ、ずーっとね」
「おい、大丈夫かあ?」
クリも、すっごい心配してくれる。うれしいなあ。
「しばらく休んでたら治まったわ」
「ならいいけどぉ。どうせ午後は自習なんやから、そのまま寝とったらよかったんに」
「そうしたいとこなんやけどな。卒制、テーマ決めたから、それ野崎センセに報告してこなあかん」
「おっ!?」
クリがびっくりする。びっくりくりや。ははは。
「仮?」
「いや、固めた。ただ、具体的に何作るかぁ言うのはまだやけどね」
クリが探りを入れてくる。
「単独?」
「せや。そういうテーマやし」
「どういうの?」
「むー。まだないしょ。ってか、ちょっと待って。野崎センセとちと打ち合わせして、ゴーサイン出たらオープンにするわ」
「コンペは?」
「出す」
「おおーっ! なんか、一気に行きよったねえ」
「こんなん、ぐだぐだ考えよってんどうにもならへんしぃ」
「そかー。でんでんに火ぃ付いたかあ」
「こんがり丸焼けや」
「ぎゃははははっ」
クリのテンションが上がってる。やっぱ、そういうのってうつるんやろなあ。クリにはいっぱい元気もろてる。ありがと。
野崎センセのとこ行こう思たら、ちょうどエントランスに出てきた。
「ちわーす、せんせー。今日は外メシでっか?」
「おう、でんでん。午前中はどないした?」
「昨日アッコに付き合って、潰されましてん」
「ははは、そりゃあ災難やったなあ」
「どこで食べますのん?」
「マクドや。今日は午後も予定入っとるし。さっさと食べて戻らなあかん」
「一緒していいすか?」
「構わんが、どした?」
「いや、卒制のテーマ決めたんで」
「おおっ!」
センセが、ぽんと飛び上がって喜ぶ。
「天才でんでんが動き出すぅ!」
「ちょっとセンセ。わたし大魔神やないんやから!」
「ふるー」
ほっとけ。
「時間ないし、急いで行こか」
センセがわたしを急かした。
◇ ◇ ◇
「おごったるでぇ」
やりぃ! ……と思ったら。
「センセ、なんでハッピーセットと百円マックなん?」
「ははははは」
はははやないわ。まったくぅ。どうすんだよ、このおもちゃ。ぶつぶつ。
「で?」
いきなり振られる。
「ええと。まだ具体的にこれ作ろうって感じやないんすけど、テーマは、まい_すぺーすです」
「わたしの空間、か」
「はい。イメージとしては空間よりかは場所って感じなんですけどぉ」
「わたしの場所、ね。なんでまい_ぷれいすにせぇへんの?」
「それやったら、なんか平面って感じやないすか」
「あ、そらそうやな。さすが、天才でんでん」
これだよ。とほほ。
「コンセプトは?」
「わたしが迷ってんのを、そのまんまいったろー思って」
「ほう。自分の居場所ちゅう感じか……」
「はい。就職にしてん、恋愛にしてん、なあんかまだ自分の居場所見つかってへんなあいう感じで」
「それを模索する?」
「そんなイメージです」
「造形のアイデア起こしは?」
「昨日からラフ描き始めました」
「素材は? ブロンズ?」
「まだ決めてません。
「せやな。独りでやんのか?」
「テーマがテーマっすから」
「なる。コンペは?」
「出します」
「うっしゃ!」
センセが背中をどんどん叩く。げほげほ。一応女の子なんやからもっと手加減してんか、センセ。
「俺が言うことなんかなんもないわ。がっつり突っ込んだれ!」
「はいっ!」
やっぱ、決まるとすっきりするなあ。やる気ばんばん湧くで!
「ああ、そや」
センセが、まだビニールに入ったおもちゃを手にする。
「おまえに一つ口を見つけてきたんやけど、面接だけでも行って見ぃひんか?」
え? センセが、ぽけっとしたわたしの目の前におもちゃをぽんと突き出す。
「おまえ、これ見てどう思う?」
「どう思うて、おもちゃやないすか」
「くだらんと思うか?」
「いや、そんなことあらへんと思いますぅ。食玩にはまる人はぎょうさんおるしぃ」
「ははは。そうだよな」
先生は財布の中から名刺を一枚引っ張り出して、わたしの前に置いた。
「そういうのをな、企画して売っとるとこがあるんや。まだ出来てなんぼもたっとらんちっちゃい会社や。俺の知り合いが始めたばっかなんやけどな」
「へえー」
「こういうのを大量に作るんは、コスト的にもう日本ではやれへん。けどな、こんなん作って売ったらおもろいんちゃいまっかってサンプル作って、企業にアイデアや企画を売り込むってのを考えよったんよ」
「ほほー。そんなん初めて聞きましたあ」
「せやろ? 社長は俺と同い年や。めっちゃ若い。社員も四人しかおらへん。仕事はなんでもありや。営業にも回らなあかんし、ゼニカネの計算もせなあかん。けど、主な仕事はアイデア絞り出すことや」
おっ!
「どや? 給料はやっすいし、安定はしとらんよ。いつ潰れるかも分からへん。せやけど、やりがいはあるやろ」
「そっすね」
「おまえの作ったものが、堂々と世に出る。そういうチャンスがあるねん」
うわお。ぞくぞくする。
「社長、ごっつ変わりもんやさかい、気に入られんと入れへんと思うけど、会うだけでん会ってみ」
「ありがとうございますっ!」
「ははは。くっだらん会社でセンス腐らすくらいなら、冒険しぃひんとな」
うん! おっしゃあっ! がっつり気合い入って来たでぇ! バイトがんばろ!
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