1章〜白黒の番19

「セラフィ、アリウス。先に黒竜と一緒に名前を考えておいてくれないか?」


「カリア、逃げるの?」


「いや…。賢者ヒスイに連絡して、ガイウスをここに連れて来て貰うんだ。白竜に残された時間は長くないからな。早めに連絡しておきたい。」


「あぁ、なるほど。」


「ねぇカリア。父様と一緒に、ラピスとロードも一緒に連れて来たらどうかしら?」


「…あぁ。確かに、ラピスはドラゴンを見たいって言ってたし、ロードを連れてくれば黒竜の翼を治療できるかもしれないしな。…黒竜。」


「なんだ?」


「お前の両翼を治せるかもしれないんだけど、治したいか?」


「…無論、治せるならそうしたいが…そんなことできるわけなかろう。」


「わかった。あまり期待せずに待っていてくれ。」


「変なことを言う奴よ。」


「あぁそれと、俺たちの友達をあと2人連れて来るつもりだけど、良いか?」


「…お主らの友人なら、まぁ良かろう。」




アリウスのことは認めてるみたいだが、他の人間にはまだ抵抗があるようだ。


そう言えば…黒竜にちゃんと聞いてなかったな。




「わかった。じゃあ2人も連れて来るように言うとして…。 黒竜、もう一つ聞きたいことがある。ガイウスのことは知ってるのか?」


「ちょっ…カリア!私もそれ話す機会伺ってたのに…!」


「じゃあ丁度良い機会だな。俺の代わりに話してくれるか?」




多分アリウスは、俺と同じことを話すつもりだろう。




「…うん。ありがとう。」


「ガイウス…。確か、お主らが白竜に話しておったな。白竜に風穴を空けた人間か?」


「…そうです。その人は私の父でして…。」


「ほぉ、そうであったか。」




ガイウスのことを知っているなら、ここに連れてくることを反対しそうなものだが…そう言った素振りは見せていない。




「その…黒竜さん。私の父が、白竜さんにしてしまったことを…恨んでますか。」


「…白竜があんなに幸せそうでなければ、恨んでおったかもしれんな。」




黒竜が視線を向けた先に居た白竜は、桃竜が卵の殻を食べる音を聞きながら度々話し掛けていた。


微笑ましい光景というのは、こう言う光景なのだろう。




「…恨んでいないのですか?」


「確かに、その者は白竜の仇とも言える人間だ。白竜の死を想像するだけで、ワシは耐え難い悲しみを覚える。恨む理由としては十分だな。」


「…。」


「だが…その者を恨むと言うことは、白竜の死を否定すると言うことだ。白竜の選択を受け入れたワシは、白竜の死を否定する必要が無い。必然、その者を恨む必要が無いわけだ。」


「…恨む必要が無いのはわかったけど、お前が抱いている感情に恨みは無いのか?」


「ぬぅ…。ワシなりに上手く説明できたと思ったが…まだまだらしいな。恨みの感情など無い。ワシの最愛のドラゴンが、あんなにも幸せそうにしておるのだ。これ程嬉しいことは無い。終わり良ければ全て良しと言うやつだ。まぁだが…そうだな。」


「…?」


「ワシはその者を許したわけではない。白竜を傷付けた理由によっては、アリウスの父とて容赦はせん。」


「…後で白竜の記憶を見れば、その理由もわかると思うけど…悪い人じゃないよ、黒竜。」


「…そうか。まぁ、余程度し難い人間でもなければ殺めることは無い。」


「…そう言って頂けると、私も気が休まります。」


「この話は終わりだ。それよりも、名を考える手助けをして欲しいのだが…。」


「あ、はい!もちろんです!」




この様子なら、ガイウスを連れて来ても問題無さそうだ。




「じゃあ、俺は賢者ヒスイと話してくるから、そっちは頼んだ。」


「わかった。」




俺は皆から少し離れた場所へ行き、シスターアルマからもらった十字架のペンダントを取り出した。


これに魔力を流すと、賢者ヒスイに連絡できるそうだが…どのように作動するのかは想像できないな。




「とりあえず魔力を流すか…おぉ。」




ペンダントに魔力を流した途端、ペンダントが宙に浮き、微細に振動し始めた。




「この後はどうすればいいんだ…?魔力の供給は続いてるみたいだけど…。」




このまま魔力の供給を続ける必要があるのかどうか考えていたら、ペンダントから声が聞こえてきた。




『あ、もしもし?この声が聞こえてたら、ペンダントに向かって話しかけてみてくれ。』


「賢者ヒスイか?俺も話しかければいいのか?」


『あ〜そうそう!私は賢者ヒスイだよ〜。その声はカリアだね?』


「あぁそうだ。これ…凄いな。離れている人間と会話できる魔道具なのか。」


『凄いだろう?まぁこれ作るのめんどくさいから量産はできないんだけど…。それは置いといて、もう白竜の村の調査が終わったのかい?』


「あぁ、終わったんだけど…ちょっと急ぎで、頼みたいことがあるんだ。」




俺が要件を伝えようとすると、賢者ヒスイ以外の声が聞こえてきた。




『ん?その声はカリア君じゃないか!?娘は!アリウスは無事なのか!?』


『…ガイウス。心配しすぎだ。ごめんねカリア、今ちょうどガイウスの執務室に居てね。ガイウスにも会話が聞こえるんだ。』


「…そうなのか。ちなみにアリウスは無事だ。怪我ひとつないから安心して欲しい。」


『そ…そうか。良かった…。』


「今、黒竜とセラフィと一緒に楽しそうに話してるぞ。」


『…ん?黒竜と聞こえたのは気のせいか?』


「いや、気のせいじゃないぞ。知っての通り、黒い鱗のドラゴンのことだ。色々あって仲良くなった。」


『…カリア君!ちゃんと説明してくれ!本当にアリウスは大丈夫なのか!?黒竜に喰われたりしないだろうな!?』


『…カリア、とりあえず調査報告として説明してくれるかい?』


「わかった。」




俺は白竜の村に来てからの話を、かいつまんで説明した。




───────────────────────────




『…なるほど。しかし、白竜が本当に生きているとはな…。』




俺の説明を聞き、ガイウスは落ち着きを取り戻したようだ。




「あぁ、俺もセラフィも驚いた。でもさっき言った通り、あまり長くは生きられないんだ。ガイウス、白竜が話したがってるから、早くこっちに向かった方がいい。」


『…そうか。どうやら、迷っている暇は無いようだ。』


『…行くのかい?』


『行くしかないでしょう。ここで行かねば…私は一生後悔を抱えたまま生きることになると思います。』


『…そうか。じゃあ行ってくると良い。君の無事を祈ってるよ。』


『縁起でもないことを…。ん?師匠は行かないのですか?』


『私が行っても、何もすることはないからね。』


『そう…ですか。』


「あ、そうだ。ロードとラピスも一緒に連れて来てくれないか?黒竜には許可を取ってあるから大丈夫だ。」


『あぁ、わかった。ちなみに白竜の村へはどうやって行ったんだい?』


「途中まで馬車を使って行ったな。ナイト王国の関所近くに『旅馬』って言う店があるんだけど、その店の店長のグレースに聞いてみてくれ。俺たちを降ろした村まで来てくれれば、そこからは俺たちが案内する。」


『わかった。すぐに手配しよう。』


「出立はいつになりそうだ?」


『そうだな…早くても明朝になると思う。出立する時は、また師匠からカリア君に連絡してもらえますか?』


『あ〜…これ、私からカリアやセラフィに連絡することはできないんだよね。』


「…一方通行なのか。じゃあ明日、俺から連絡しようと思う。」


『ごめんね〜。』


「いや、大丈夫だ。それじゃあ、ロードとラピスも頼んだ。」


『は〜い。』


「…これ、どうやって切るんだ?」


『魔力の供給を切ったら、通話が終わるよ。』


「…それもそうか。」




賢者ヒスイに言われて魔力の供給を断つと、ペンダントは浮力を失い、その場に落ちた。




「とりあえず、ガイウスは間に合いそうだな。」




そう言えば…ここに来る前の村に、元白竜の村の住人が居ることを伝えてなかったな。




「まぁいいか。」




俺は大して気にすることも無く、セラフィたちの会話に混ざりに行った。

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