1章〜白黒の番5
その賢者ヤマダという人間が、クォーツ王国を魔法至上主義国家にしたのか。
「賢者は国の政治に関わることもできるのか。魔法を使えない人間が住みにくいと言うのはどうしてなんだ?」
「魔法を使えない人間は、徴収される税が高くなる上に、まともに稼げる仕事ができねぇんだ。」
「そんなの、国から出て行けって言ってるようなものじゃないか。」
「その通りさ。賢者ヤマダが何を考えてんのか知らねぇが、国がそう言う政策を通したってことは何かしら利点はあったんだろうな。実際、魔法を使える人間にとってはかなり住みやすい国だから、魔法を使える人間が移住して来て国民は増えてるんだとよ。」
「…そうなのか。でもグレース、さっき行くことはお勧めできないって言ってたよな?」
「あぁ、それでさっきの創造神教の話だ。創造神教の流行と共に、狂ったように信仰する人間が増えてきてるらしいんだ。」
「狂ったように信仰する?寝る間も惜しんで祈りを捧げるとか、そういうことか?」
「そんな感じらしいな。あとは仕事そっちのけで祈りに勤しんだり、他人に祈りを強制させたりとかだな。聞いた話だから、実際はもっと酷いかもしれねぇ。」
もし他人に危害を加える程に狂信している人がいたとしても、今のラピスとロードなら十分制圧できるだろう。
あの二人と一緒にクォーツ王国へ行くことは変わらないが、俺たちは必要ないかもしれないな。
「俺が聞いてる話はそれだけだ。あの国の詳しい現状はわからねぇから、行く時は気を付けた方がいい。」
「わかった。忠告ありがとう。」
「良いってことよ。」
クォーツ王国の問題はわかったが、賢者ヒスイが干渉できないという点についてはわからなかったな。
何か他に問題があるのかもしれないが、これ以上の情報は無さそうだ。
「ねぇセラフィ、ずっと気になってたんだけど、その服すごく似合ってるね!」
「いいでしょ。シスターアルマにお願いしたら仕立ててくれたの。創造神教には興味ないけど、服の造形が好きだから着てみたかったの。」
「いいなぁ。でもカリアは大変ね。こんな可愛い子を侍らせて旅に出たら、悪い虫がいっぱい寄ってきちゃうわよ。」
「アスベストみたいなやつか?」
「あはは!そうそう!」
「ねぇアリウス。あんな奴、貴族の地位を剥奪するべきだと思うんだけど、どうして野放しにしてるの?」
「…別に野放しにしてるわけじゃないの。貴族の地位はそれなりの罪を犯さないと剥奪されないから、その罪に抵触しない程度の横暴に抑えてるみたい。アスベストの父親のバンデンさんは、罪を犯した疑いをかけられたけど、証拠不十分で罪に問えなかったこともあるし…。」
「小賢しい…。」
「そうなのよ…。でも、明るみに出てないだけで、絶対に重大な罪を犯してるはずよ。いつか証拠を掴んで、貴族の地位から引きずり下ろしてやるんだから!」
「私も手伝う。」
「ありがと~!」
そんな雑談をしながら、しばらく馬車に揺られた。
「御三方、村まであと半分くらいの所まで来たぜ。ここいらで休憩したいんだが良いか?」
「あぁ、いつでも休憩してくれ。」
「じゃあそこの脇道で馬車を止めて、30分くらい馬を休ませたらまた出発するからな。」
「わかった。」
グレースは脇道に馬車を止め、馬に水や餌を与え始めた。
「俺も少し外に出ようかな。座り疲れた。」
「私も行く。アリウスも行こう。」
「うん。」
俺たちは外に出て身体を伸ばした。
「それにしても、賊が襲って来ないな。道中2,3回は遭遇すると思って警戒してたんだけどな。」
「ははは!そんなしょっちゅう遭遇することは滅多にねぇな。まぁ1回くらいはあるかと思ったが、護衛を付けてないのが逆に警戒させてるのかもしれねぇな。」
「そうだ…と良かったんだがな。セラフィ、感じるか?」
「…うん。魔力持ちの人が10人くらい、私たちが来た道から来てる。」
「俺も、殺意の塊が押し寄せてきているのを感じる。多分もっと多いな。セラフィはアリウスとグレースを頼む。」
「わかった。」
「え、何?どうしたの?」
「賊が来た。馬車に乗って待ってて。グレースも。」
「噂をすればなんとやらだぜ…。」
セラフィはアリウスとグレースを馬車に乗せて馬車を守るように陣取った。俺は馬車から少し離れたところで賊を迎え撃つために前に出た。
殺意の塊は視認できる所まで迫っている。見た限りだと、30人は居る。
「おいダンナ、あの赤髪が例の獲物か?」
「そうだ。獲物以外に手を出したら報酬は無ぇからな。」
「そんなケチなこと言うなよダンナァ。あの後ろにいるシスター、かなりべっぴんさんだぜ?」
前に出て先導している二人の男の会話が聞こえて来た。
どうやら俺が標的にされているみたいだが、賊の長らしき筋骨隆々の男はセラフィにも目を付けているようだ。
「頭のお前が約束守らねぇんじゃ、他の奴らに示しが付かねぇだろ。死にてぇのか?」
賊長と話していた男が歩みを止め、持っていた短剣を賊長の首に突き付けた。
「わぁったよ。おっかねぇなダンナはよぉ。」
「仲間割れか?」
ちょうど俺の声が届く範囲まで迫って来ていたため俺から先に声をかけると、賊長と話していた男が応えた。
「こいつらは仲間じゃねぇ。俺が雇ってるだけだ。」
「そうか。ところでお前、俺のことを覚えてるか?」
「はぁ?俺に言ってんのか?」
「そうだ。討竜祭の時は世話になったな。」
「…お前、あんときのガキだったのかよ。」
賊長と話していた男は、顔に布を巻いており、黒い外套を身に纏っている。
パレードの時に国王ガイウスを殺そうとしていたあの男の姿そのままだ。
「久しぶりだな。そんな大仰な人数を連れて何をするつもりだ?」
「お前を殺すつもりだ。」
やはりこの男は、王宮で俺を尾行していたトールという男の可能性が高い。
そして、もしこの男がトールだった場合、俺たちはかなりまずい状況になりかねない。
「なんだよダンナ、知り合いか?」
「一回戦ったことがあるだけだ。舐めてかかると痛い目見るぞ。」
「わぁってるって。」
「…手筈通り頼むぞ。」
「はいはい。んじゃお前ら!行くぞ!」
「「「おおおぉぉぉ!!!」」」
賊長とその手下の10人ほどが各々武器を構えて俺に突っ込んできた。
手下の攻撃は軽くいなすことができたが、賊長が振るって来た極太の棍棒は受けざるを得なかった。
受け切ることはできたが、悪い予感が当たってしまった。
「…流石にこれは重いな。」
「おいおいまじかよ。お前魔法使ってねぇはずだよなぁ?」
俺は迫り来る棍棒を受けるために身体強化魔法を使おうとしたが、使うことはできなかった。
この賊長が嵌めている指輪は、アスベストが持っていたものと同じ魔道具なのだろう。
アスベストがトールに与えたと見て間違いないな。
しかしトールは魔力を持っていないから、賊長に渡しているのだろう。
「その魔道具壊れてるんじゃないか?」
「なんだぁお前、知ってんのかこれのこと。直前にちゃんと動くことは確認してんだよ。舐めてかかると痛い目見るたぁ、よく言ったもんだぜダンナはよぉ。」
それを聞いて、トールの姿が見えないことに気付いた。
探そうとしたが、背後からただならぬ殺意を感じたため、探す手間は省けた。
「…そこか。」
「っちぃ!これも避けれんのかよ、お前。」
そう言いながら、俺が返答する間も与えない速さで攻撃を仕掛けてきた。
短剣による無造作な連撃…のように見えるが、俺に短剣を掴ませないように、軌道を逸らしながら振るって来ている。
「魔法を使わずに、これ程動ける人が居るんだな。」
「涼しい顔して!避けてるお前に!言われたくねぇんだよ!」
俺はトールと話したいことがあるため、この男を殺すことはできない。
どうにかして制圧したいが、こんなに動ける人間だとは想定外だったため難しそうだ。
「…なぁんだ、ダンナだけで大丈夫そうじゃねぇか。」
賊長が暇そうな声でそう呟いたのが聞こえた。
俺が賊長の様子を見ると、セラフィの方を見てほくそ笑んでいた。
そう言えばセラフィから援護の魔法が飛んで来ない…まさか。
「セラフィ!魔法は!」
「…使えない!」
俺はあの指輪の魔道具の効果範囲を見誤っていた。
それは俺だけではなかったが、俺の発言は敵に塩を送る形になってしまった。
「おぉ?こっからでも効いてんのかこの指輪!良いねぇ…。おいお前ら、お楽しみの時間だ!」
賊長は手下を全員引き連れ、セラフィの方へ迫って行った。
それを見たトールは俺への攻撃を中断し、賊どもに声を荒らげた。
「おい貴様らぁ!そっちには手ぇ出すなって言ったよなぁ!」
「んなこと言われたってよぉ!我慢できねぇよダンナぁ!」
魔法が使えないセラフィも、身体の硬さや力強さは人並み以上だが、体術の心得が無い。
数の暴力で抵抗できなくなるのは目に見えていた。
「一時休戦だ。お前も、セラフィを賊に盗られるのは困るはずだ。」
セラフィを賊に盗られたなど、アスベストに報告できるはずがない。
「…今から追って、あの人数をどうするつもりだ。」
「どうにかするから、早く一時休戦を受け入れろ。時間が無い。」
「…受け入れる。」
最初は賊どもを殺すつもりはなかったが、俺の中でアレらは死んでもいい人間だと判断した。こうなってしまっては仕方がない。
「セラフィ!俺の魔法に合わせろ!」
セラフィにそれだけ伝え、俺は固有魔法を展開した。
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