1章〜賢者の館20

「御館様とユリ様は研究室に戻られたのですね。わかりました。」


「シスターアルマ、ユリのこと知ってたんだ。」


「えぇ。あまり会ったことはありませんが、研究熱心な方だと記憶してます。」


「確かに、そんな感じだった。」


「それにしても、随分長かったですね。」


「うん。私たち、賢者の弟子になったの。」


「…やはりそうでしたか。おめでとうございます。」


「知ってたの?」


「いいえ。あなたたちを除いて過去に1度だけ、二人同時に面談した子が居ました。その子たちも賢者の弟子になっていましたので、もしかしてと思ったのです。」


「ユーベルトとオリファーだね。」


「その通りです。」




ユーベルトとオリファーは天然の不老と言っていたし、俺とセラフィのように、何か特別な事情があったのだろう。




「ラピスとロードは食堂であなたたちを待っているそうですよ。今後のことについて、話し合って来てはいかがですか?」


「そうだな。食堂に行こうか。」


「うん。」


「私は自室に居ますので、何かあったら訪ねて下さい。」


「わかった。」




俺たちは、ラピスとロードが待っている食堂に向かった。


食堂に続く扉を開くと、ラピスとロードが向かい合って座っていた。




「長かッたじャねェか。」


「あ、二人ともおかえり!どうだった?」


「うん。私たち、賢者の弟子になれたよ。」


「おめでとう!まぁ二人なら当たり前ね!」


「ラピスとロードはどうだったんだ?予定通り、料理屋はできそうか?」


「あァ。店出す場所を探さねェといけねェし、料理に必要な道具やら食材の確保…全部一から俺たちでやらなきャならねェ。初期費用は賢者ヒスイが出してくれるんだと。」


「それは太っ腹だな。でもかなり大変そうだ。」


「この館から卒業した人のツテを頼っていいみたいだから、その分少しはやりやすいと思うわ。」


「それはいいな。店を出す場所を見つけるまでは、この館に居るのか?」


「あァ。今は俺ら以外の子どもはこの館にいねェから、まだ居ていいんだとよ。」


「至れり尽くせりだな。」


「まァそうなんだが…ラピス、どうすんだ?」




ロードがラピスにそう話しかけると、ラピスは真剣な表情になった。




「何かあったのか?」


「うん…。私がセラフィとカリアに初めて会った時、私がここに来る前の話をしたことを覚えてるかしら?」


「覚えてる。」


「俺も覚えてるぞ。ロードも聞いたのか?」


「あァ、聞いた。」


「その時は私、親に捨てられたって思ってたんだけど…違ったみたい。」




ラピスはそう言いながら、1枚の紙を俺たちに見せてきた。




「これは…契約書?」


「そう。私の父様の…ライル・ラズリと、ヒスイ様との契約書よ。」




契約内容はこうだった。




────────────────────────────────────


ライルの要求


・ラピスが独り立ちできるようになるまで、賢者の館で世話をすること。


・契約履行を確認するため、独り立ちしたラピスの姿をライル・ラズリに確認させること。


・この契約書の内容を他人に教えないこと。




賢者ヒスイの要求


・ラピスを賢者の館へ連れて行く前に、ラピスとラズリ家の縁を切ること。


・ラピスを賢者の館で育てるための支援金を支払うこと。


・この契約書の内容を他人に教えないこと。




契約者の死による不履行を除いて、要求が果たされなかった場合、不履行者は契約者に違約金を支払うこと。


────────────────────────────────────




契約書の下の方には、支援金の金額と違約金の金額が記されてあった。




「…これ、他人に教えないことって書いてあるけど、いいのか?」


「うん。ヒスイ様は、先に約束を破ったのは向こうだからいいんだって言ってたわ。」


「ラピスのお父さんが賢者ヒスイに頼んで、ラピスをここに入れたということ…?」


「そうみたい。…ヒスイ様から聞いたの。私に、ラズリ家から捨てられたと思わせるために、森の中で私をヒスイ様に拾わせたんだって。独り立ちした私の姿を、父様に見せる義務はヒスイ様にはもう無いから、私が父様に会うかどうかは任せるって、言われたわ。」


「…どうしてラピスの親は、そこまでして賢者の館に入れようとしたんだ?」


「理由は、直接会いに…クォーツ王国に行って聞けって、ヒスイ様が言っていたわ。あと、もしクォーツ王国に行くなら、カリアとセラフィも連れて行け、とも言われたわね。」


「俺たちを?なんでだろうな。」


「…わからない。でもラピスが行きたいなら、私はついて行く。」


「そうだな。ラピスが行きたいなら、ついて行こう。」


「二人とも、ありがとう。…でも、もうちょっと考えさせてほしいの。」


「何をそんなに悩んでんだよ。今のラピスなら、胸張ッて会いに行けんだろ。」


「…会いに行くのは良いの。でも、ここからクォーツ王国に行くのに2週間はかかるのよ?その間ロードのお店の手伝いができないのが…嫌なの。」


「お前…そんなこと気にしてたのかよ。」


「気にするわよ!ロードと二人でお店開くの…すごく楽しみにしてたんだから。」


「…じャあ、クォーツ王国で店出す場所、探してみるか?」


「…来てくれるの?」


「別にナイト王国で商うことにこだわりはねェからな。」


「…ありがとう。」




話はまとまりそうだな。




「俺たちは明日、賢者ヒスイと一緒に国王ガイウスに会わないといけないらしい。その後はどうするかわからないけど、ラピスとロードとクォーツ王国に行くことを、賢者ヒスイに相談してみるよ。特に緊急の用がなかったら、明日にでも行けると思う。」


「うん、ありがとう!私たちも明日出発することになった時のために、準備しとくね!」


「あァそうだな。後でシスターアルマにも言ッとかねェとな。」


「あ、そうだ。私もシスターアルマにお願いがあるんだった。」


「珍しいな、セラフィ。どんなお願いなんだ?」


「大したことじゃない。」


「…そうか。じゃあ今日は各々準備をするということで。」


「うん。」


「わかったわ。」




俺たちは各々部屋に戻り、明日出立できるように準備をした。


俺は持っていくものがそんなに多くはなかったから、すぐに準備を終わらせることができた。


明日は何事もなければ良いのだが。

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