1章〜賢者の館21

「カリア、起きてるかしら?」




俺の部屋の扉がノックされ、外からシスターメイルの声が聞こえてきた。




「うん。起きてるよ。」


「朝からごめんなさいね。御館様がいらっしゃってるわ。御館様が部屋に来るようにって。」


「わかった、すぐ行くよ。セラフィも呼ばれてる?」


「えぇ、呼ばれてるわ。」




俺は部屋の扉を開けて、シスターメイルと対面した。




「なら俺が一緒に連れて行くよ。」


「あら、ありがとう。それじゃあよろしくね。」




俺はそのままセラフィの部屋の前に行き、扉をノックしようとした。




「カリア?どうしたの?」




俺がノックする前に、セラフィが扉の向こうから話かけてきた。




「賢者ヒスイが迎えに来たみたいだ。一緒に行こう。」




俺がそう声をかけると、扉が開きセラフィが出てきた。




「うん、わかった。」


「早いな。」


「もうすぐ呼びに来るかなと思って。」


「…あぁ、賢者ヒスイが来てるのがわかってたのか。」


「うん。突然現れるからわかりやすい。」


「流石だな。じゃあ行くか。」


「うん。」




俺たちは賢者ヒスイの部屋に向かった。


賢者ヒスイの部屋の前に着き、ノックをしようとしたところで扉が開いた。




「失礼致します。…あら、ごめんなさい。二人とも、これからガイウスのところに行くのですね。」


「うん。何をするのかわからないけど。」


「これから御館様から、お話されると思います。セラフィ、昨日お願いされたものですが、今日中にはお渡しできると思います。」


「うん、ありがとうシスターアルマ。無理を言ってごめんなさい。」


「いえいえ、大丈夫ですよ。カリアも、楽しみにしていてくださいね。」


「え?あぁ…うん。」




一体セラフィは何を頼んだんだ。


楽しみにしていて、と言うからには楽しいことなのだろう。




「御館様がお待ちでしたね。引き止めてごめんなさい。」




シスターアルマはそう言い残し、自室に戻って行った。


俺たちは賢者ヒスイの部屋の扉をノックした。




「どうぞ。」




賢者ヒスイの声が応え、俺たちは部屋の中に入った。




「やぁ二人とも、おはよう。」


「「おはよう。」」


「これからガイウスのところに行くんだけど、一応公的な場になるから、国王に会う時の所作を教えておこうと思ってね。」


「なるほど。それはありがたい。」


「簡単だから、すぐに覚えられると思う。国王の前まで歩いて行って、適当な距離まで国王に近づいたら、片膝を立てて座って…こんな感じだ。顔を上げるように言われるまで目線は下に向けること。」


「…こうか?」




俺たちは賢者ヒスイが実際に見せてくれた所作を真似してみた。




「うん、それで大丈夫だよ。君たちは基本的に、そのまま話を聞いていればいいから。」


「そもそも、何をしに行くんだ?」


「そういえば言ってなかったね。賢者が弟子を迎え入れたら、公に知らせないといけないんだ。賢者である私もそうだけど、賢者の弟子もそこそこの地位があるからね。」


「なるほど。だけど、そう言う地位は面倒ごとが多くなるんじゃないか?」


「どこで聞いたんだい?」


「聞いたというか、本で読んだ。」


「なるほどね。まぁ面倒ごとは確かに多くなるけど、君たちに回ることは基本的には無い。ただ、異性から言い寄られることが増えるかもしれない。君らは容姿が良いから尚更だね。」


「…そのくらいなら問題無いか。」




今は身を固めようと思っていない。


言い寄られても断ればいいだけだ。




「…意外と大変なことではあるんだけど、こればかりは経験してみないとわからないか。」


「それより賢者ヒスイ。ラピスの件で相談がある。」


「ラピスと一緒に、ライルに会いに行ってくれるのかい?」


「あぁ、そのつもりだけど、なんで俺たちも一緒に行かせるんだ?」


「ラピスを一人で向かわせるのは危険だと判断したからだよ。」


「ロードも一緒に行くことになってるけど、ダメなの?」


「ダメだね。君たちが一緒じゃないと。」


「どうして?」


「今、あの国はちょっと問題があるんだ。私はその問題に干渉できないから、私が動くことはできない。」


「…俺たちを行かせるのは、その問題を解決させるためか?」


「いや?君たちに同行をお願いするのは、ラピスとロードの護衛のためだ。」


「その問題は解決しなくていいのか?」


「それは現地に行って、君たちが判断することだ。」




どういうことだ?問題を問題と認識しているにも関わらず、解決するか否かは俺たちに任せるのか。




「まぁ…とにかく護衛として一緒に行くことになった。早ければ今日出立する予定なんだけど、大丈夫か?」


「今日?随分急な話だね…。まぁ早く行ってくれる分には問題ないんだけど…ガイウスが何を言い出すか分からないからなぁ…。」


「何かあるのか?」


「もしかしたら、何か頼みごとをされるかもしれないんだ。ガイウスは国王だから、その頼みごとは優先度が高いんだよ。」


「そうなのか…もし何かあったら、ラピスとロードにこの館で待って居てもらうことはできるか?クォーツ王国で店を探すと言っていたから、この国でやることはあまり無いんだ。」


「わかった。もし何かあったら、頼まれごとが終わるまでこの館で世話をするように言っておくよ。」


「ありがとう。」


「…もうそろそろ出ないとかな。ガイウスのところへ行こう。外に馬車を用意してある。」


「…てっきり、瞬間移動魔法で行くものだと思ってた。」


「あぁ、それはごめんね。王宮には瞬間移動地点を設けてないんだ。」


「瞬間移動魔法はそう言う原理ということ?」


「うん。軽く説明すると、対象を分子レベルに分解して、その分子と情報を瞬間移動先に光速で送る。送った先で再構築する。それだけだ。」


「全く意味がわからない。」


「まぁそうだろうね。あ、やば。急ごう、約束の時間に間に合わなくなる。」




俺たちは急いで馬車に乗り、王宮へと向かった。

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