1章〜賢者の館22

「賢者御一行様、確認致しました。門を開けろ!」




馬車に揺られること20分、俺たちは王宮前の門に辿り着いた。


俺たちの身元確認も終わり、門が開いた。


そのまま王宮の正面入口まで馬車を進めた。




「ギリギリ間に合って良かった。降りるよ、二人とも。」


「うん。」




俺たちが王宮の正面入口で馬車から降りると、俺たちを待っていたであろう使用人が駆け寄ってきた。




「お待ちしておりました、賢者御一行様。」


「うん。時間は問題無かったかな?」


「…それなのですが…。」


「あれ?もしかして遅れちゃってた?」


「あぁいえ!賢者御一行様は時間通りでございます!…その、陛下が予定を遅らせておりまして…。」


「へぇ、あのガイウスが?珍しいね。」


「賢者様…ここでは国王陛下と…。」


「あぁごめんごめん。それで?国王陛下はどのくらい遅れるんだい?」


「申し訳ございません。詳しい遅延時間は把握できておりません…。お待ちの間、別室にお通しするよう、仰せつかっております。」


「そう…。二人とも、ちょっと待つことになった。」


「うん。」


「わかった。」


「誠に申し訳ございません。別室へ案内致します。」




俺たちが王宮の正面入口の大きな扉の前に立つと、両脇の門番が扉を開いてくれた。


開かれた扉の先には、この王宮で仕えているであろう使用人たちが横一列に並んでいた。




「ようこそ、お越しくださいました。」




中央の使用人がそう言うと、使用人たちは一斉にお辞儀をした。壮観だった。




「毎度大袈裟だね。部屋に案内してくれる?」


「はっ!こちらにございます。」




中央の使用人が先導してくれるようだ。




「びっくりしたかい?」


「うん、凄いな。それだけ地位が高いということか?」


「そうだね。私も詳しくはわかんないけど。」




俺たちはその弟子になってしまったのか。


こういった扱いは慣れなさそうだ。




「こちらのお部屋でお待ちください。」


「ありがとう。」


「とんでもございません。」




使用人は扉を開き、俺たちを中に入れると恭しく扉を閉めた。


賢者ヒスイは1人がけの椅子に、俺とセラフィは2人がけの椅子に座った。




「あの子が予定を遅らせるなんて珍しいな。」


「時間に厳しい人なの?」


「うん。計画も余裕を持って立てる性格のはずなんだけどな。何かあったのかな。」


「完璧に時間を守れる人間なんていないと思うぞ。」


「まぁそれもそうだね。」




会話の切れ目に、部屋の扉がノックされた。




「賢者ヒスイ、私だ。入るぞ。」




こちらの応答を待たずに入ってきたのは、様々な装飾品を身に纏った、少し肥えた男だった。隣には、その息子と思われる子供が居た。くせっ毛の強い、濃い緑色の髪がそっくりだ。




「入っていいなんて言ってないんだけどな。」


「今日は弟子を連れてきたみたいだな。」


「バンデンさん、あなたは相変わらず人の話を聞かない人だ。」


「人の話を聞かないのはどっちだ。私の息子を弟子にする件はどうした?」


「…はぁ。使者の人には断るように言ったはずなんだけどな。」


「なぜ断る?金も払うというのに。」


「お金は間に合ってる。」


「息子には魔法の才がある。」


「凡才だけどね。」


「それを育てるのが貴様の仕事だろう。」


「教育機関じゃ無いんだよ。諦めてくれ。」




何やら物々しい雰囲気だ。




「父が突然すみません。」




やはりこの子はバンデンという男の息子か。


歳は俺たちとそう変わらなさそうだ。




「僕はバンデン・ブライデの息子の、アスベストと申します。あなたのお名前は?」


「…セラフィ。」


「セラフィさん!いい名前ですね。」




俺には興味が無さそうだ。セラフィばかり見ていて、俺には目を合わせもしない。


これはあれか。セラフィは言い寄られているのか。




「この度は、賢者の弟子になられるそうですね。おめでとうございます。」


「…どうも。」


「僕も、父が直談判してくれているので、もしかしたら弟子になるかもしれません。その時はよろしくお願いします。」


「…。」




賢者ヒスイとバンデンの話を聞いている限りでは、かなり難しそうだが。


セラフィは返事もしなくなってしまった。




「あぁ、すみません。僕の話だけじゃ退屈ですよね。実を言うと、僕はあなたに惹かれております。よろしければ、あなたを僕の妻にしたい。」


「ごめんなさい。私はあなたのこと好きじゃない。」




おぉ、これが言い寄られるということか。なかなかに大変そうだな。




「…では、好きになってもらえるように頑張ります。参考までに、どのような人が好みか、聞かせてもらえますか?」


「…この人より強い人。」




セラフィは俺を指さしてそう言った。


俺を巻き込まないでくれ。


あと逃げられないように服を掴むな。


アスベストは俺の方を一瞬見たが、すぐにセラフィに視線を戻した。




「…他には?」


「ない。」


「…わかりました。頑張ってみましょう。」




アスベストは、俺とは関わりたくないようだ。


…何を頑張るんだ?




「これだけ言ってもダメなのか!」


「ダメなものはダメだ。あなたの息子さんは弟子になる器じゃない。」




バンデンが語気を荒らげたことで、俺たちは向こうの会話に意識が向いた。




「貴様に何がわかるというのだ!」


「私の審美眼を舐めないで欲しいな。いい加減諦めてくれないかい?バンデンさんにとってもこの時間は無駄に終わるよ。何があってもあなたの息子を弟子に取ることは無いからね。」


「…っ!この魔女が!行くぞ、アスベスト!」




ちょうど向こうも話が終わったみたいだ。




「…セラフィさん、またお会いしましょう。」




セラフィはアスベストには目もくれず、言葉も返すことはなかった。


バンデンとアスベストが部屋を出ると、賢者ヒスイとセラフィは疲れたようにため息を吐いた。




「ごめんね、セラフィ。厄介な人間と会わせてしまった。」


「…ううん。あれは仕方ないと思う。でも、できれば二度と会いたくない。」


「私も同感だが、あれは前国王の息子と孫なんだ。それなりに立場は上だから、完全に無視できなくてね。」




ガイウスの前の国王の子孫だったのか。


それにしてはあまり品が無いように見えたな。




「アイツ、結局カリアの名前すら聞かなかった。」


「…まぁ俺よりセラフィにご執心だったからな。気配りはできてなかったかもしれないけど、父親よりは落ち着いていたな。」


「…カリアはわからなかったかもしれないけど、アイツの魔力が私に纏わり付いてきて…正直気持ち悪かった。」




それはあまり想像したくないな。


知らぬが仏と言うやつか。




「それは災難だったな。…あと、服を掴まなくても俺は逃げたりしないぞ。」


「あっ、ごめん。」




セラフィはようやく服を掴んでいた拳を解いた。


それから程なくして、部屋の扉がノックされた。




「どうぞ。」


「失礼致します。お待たせしてしまい、大変申し訳ございません。式典の準備が整いましたので、王の間へご案内致します。」


「わかった。二人とも、行こうか。」




俺たちは迎えに来た使用人に先導され、国王ガイウスの元へ案内された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る