白黒の番24

「あ!カリア!」


俺が宿に向かっていると、宿の前に居たラピスがこちらに手を振っていた。

そこにはラピスだけでなく、セラフィとアリウス、ロードも居た。


「何で皆外に居るんだ?」

「何でって、カリアを待ってたのよ!」


ラピスが興奮気味にそう答えた。

大方、ラピスが皆を急かしたのだろう。ドラゴンに会うのを楽しみにしてたからな。


「そうか。アリウスはもう歩けそうか?」

「うん、ロードに治してもらったから大丈夫!」

「長旅で疲れてるところすまないな、ロード。」

「それは別に構わねェけどよ…俺たちだけでドラゴンに会いに行くのか?ガイウスさんのことは待たなくていいのかよ?」

「あぁ。今日は一日村長が預かるらしいから、ガイウスは明日連れて行くことになる。今日は俺たちだけで行くって村長に伝えてあるから大丈夫だ。」

「あはは…そうなのね。」


アリウスはガイウスの苦労を想像したのか、苦笑いを浮かべた。


「でも、ロードとラピスは旅の疲れが残ってるんじゃないか?もう少し休憩してからでも良いけど。」

「いや、大丈夫だ。今からでも行ける。」

「私も大丈夫!」

「…そうか。じゃあ今から行こうか。」

「やった!早く行きましょ!」

「お前はちョッと落ち着け…。」


そうしてロードがはしゃぐラピスを宥めながら、俺たちは白竜の村に続く道へと向かった。

その道の前には、ドラゴンの子のための食料を積み込んだ木箱が用意されており、背負いやすいように紐が施されてあった。

当然俺が持って行くことになり、木箱を背負った俺を先頭にして白竜の村へと向かった。


───────────────────────────


「白竜はシャルで、黒竜はアトラスか。まァ確かにあの本に倣えばそうなるな。」

「…私もその名前で呼んでいいのかな?」

「もちろんだ。その方が喜んでくれると思うぞ。」

「はぁ…ちゃんと話せるかな。もうすぐ会えると思うと緊張してきたわ…。」


俺たちは白竜の村の結界まで辿り着いた。

その道中、ロードとラピスにこれまでの経緯を話し、おおよその状況を把握してもらった。

今はロードとラピスを村の中に入れるため、セラフィが結界を改ざんしている最中だ。

その横で、ラピスが結界の見えない壁を叩いたり指でなぞったりして遊んでいた。じっとしていられないみたいだ。


「ラピス…その気持ちわかる。私も実際に会うまではかなり緊張したもの。…ロードはあまり緊張してないように見えるわね?」

「…言われてみりャあ、緊張してねェな。」

「なんで?」

「あァ〜…。こッちにはバケモン二人が居るからだな。」

「そんな人が居るの?」

「おめェがその一人だセラフィ。」

「もう一人は誰なんだ?」

「おめェだカリア。自覚あんだろてめェら。」

「まぁ確かに…カリアに関しては黒竜と…アトラスさんと一戦交えて、大人しくさせたんでしょ?ドラゴンと渡り合える人なんて聞いたことないわ。」

「そうね。私よりカリアの方がバケモノだと思う。」

「…セラフィは無駄口叩いてないで、結界の改ざんに集中してくれ。」

「…今終わった。二人とも入れるよ。」

「え!本当だ!」


ラピスは先程まで触っていた見えない壁が触れないことに気付き、結界の中に入ることができていた。


「結界の改ざん、早かったな。」

「うん。昨日でコツは掴んだ。」

「流石だな。」


俺はそう言いながら降ろしていた木箱を背負い、皆で結界の中へと入って行った。

今回は、アトラスたちの居る草原近くの結界から入ったため、結界の中に入ると草原はすぐ目の前にあり、アトラスもシャルも確認することができた。


「…あれが、ドラゴン…?うわぁ…凄い。大きい…。」


ラピスが感動していると、2頭のドラゴンの顔がこちらを向いた。

シャルが俺たちに気付いたようだ。


「わぁ…こっち見てるよ…ロード。」

「…あァ。実物はやッぱ、迫力がすげェな。」

「…良かった。普通そういう反応だよね。やっぱりカリアとセラフィがおかしいんだよね。」

「「…。」」


それについては、俺たちは何も言えない。

そのまま俺は無言で歩みを進め、皆には後ろから付いて来させた。


「アトラス、シャル。友達を連れて来たぞ。」

「えぇ。よく来たわね。」

「お主らが例の友人か。」

「は…はい。初め、まして。」

「…初めまして。俺はロードだ。こッちで縮こまッてんのがラピスだ。」

「…あぁ、そうだったわ!私たちには名乗る名前があるじゃない!私はシャル。白竜のシャルよ。」

「ワシはアトラス。黒竜のアトラスだ。」

「よ…よろしく、お願いします…。」

「ふふふ。そんなに固くならなくても大丈夫よ。カリア、その背負っているのは食料かしら?」

「あぁ、そうだ。全部、向こうの村でもらった食料なんだ。」

「…まぁそうなの。ありがとう。」

「随分気前が良いのだな。後でお主から感謝を伝えておいてくれ。」

「あぁ、伝えておくよ。それより、早速食べさせよう。この子の腹も減っているだろう。」

「ギャウ。」


桃竜は木箱の匂いから食べ物だと判断したのか、俺に寄って来ていた。


「…これが、ドラゴンの子ども…?思ってたより大きい…。」

「だな…。」


近づいてくる桃竜に、ロードとラピスは後ずさりしていた。


「そうそう。この子の名前が決まったの。」

「おぉ。なんて名前なんだ?」

「この子の名前は、ロゼ。アトラスが考えたの。良い名前でしょう?」

「ロゼ…良い名前ですね!」

「うん。アトラスが考えたとは思えないくらい。」

「やればできるじゃないか。」

「…たまたまだ。」

「ガァウ。」


俺が背負っていた木箱を降ろし紐を解いていると、ロゼがさらに近寄ってきた。


「ロゼ。もう少し待ってくれ。」

「グゥ。」


俺の意図が伝わったのか、ロゼはその場に座り大人しくなった。


「ロゼ、良い子。」

「ロゼって、自分の名前がわかってるのかしら?賢いのね。」


セラフィとアリウスはロゼに近づき、頭や背を撫でに行った。


「…触っても大丈夫なの?」

「うん、大丈夫。ラピスもこっちに来て撫でてみて。」

「人懐っこいから、怖くないよ。」

「うん…。」


ラピスは恐る恐るロゼに近づき、腕を震わせながらロゼの首筋に触れた。


「わぁ…すごい。手触りが気持ち良い…。私ドラゴンに触っちゃってる…。わぁ…。」


ラピスの表情が徐々に和らぎ、自然と笑顔がほころんでいた。


「ロゼ。ほら、これは食べれるか?」


俺は木箱を開け、中に入っていた干し肉を取り出してロゼの前に差し出した。


「ガウ!」


するとロゼは、俺が持っていた干し肉を器用についばみ、そのまま干し肉を取り上げて美味しそうに食した。

食べて良い物とそうでない物の判断が、既にできているらしい。


「やっぱり器用というか賢いな、ロゼは。」

「俺もやッていいか?」

「いいぞ。」


ロードは木箱の中からにんじんを取り出し、ロゼの前に差し出した。

ロゼは、これも器用についばんで食した。


「おォ…すげェ。」

「私もあげたい!」


ラピスのその言葉を皮切りに、セラフィとアリウスも木箱へ食べ物を取りに行き、それをロゼに与え始めた。


「アトラスも食べるか?リンゴがあるぞ。」

「おぉ。頂こう。」


俺は木箱にリンゴを取りに行き、そのついでにロードを呼ぶことにした。


「ロード。ちょっといいか?」

「なんだ?」

「アトラスの翼を治療してみてくれないか?」

「…あァ。そんなこと言ッてたな。いいぜ。」

「あなたたち、アトラスと何かするのかしら?」


俺がロードを連れてアトラスの元へ行こうとすると、シャルに話しかけられた。


「あぁ。アトラスの両翼を治してみようと思ってるんだ。」

「まぁ。そんなことができるの?」

「多分、ロードならできる。」

「…あんま期待すんじャねェ。」

「ふふふ。アトラスをよろしくね。あ…どうせだから、こっちで女子会しちゃってもいいかしら?」

「…女子会か。わかった。俺たちはちょっと離れたところに行こう。」

「お、おォ…わかッた。」


俺とロードはリンゴを持って、アトラスも連れてシャルたちの話が聞こえない位置まで来た。


「…ドラゴンッて性別はあんのか?」

「いや、人間みたいに身体的な特徴は無い。」

「だが、心はある。シャルが良く言っていたが、もし自分が人間になったら女性として生きたいそうだ。」

「お…おゥ。そうなのか…。」

「それよりお主、ワシの翼を治すことができるらしいが、本当か?」

「…やッてみねェとわかんねェな。」

「それもそうか。では、早速頼んでも良いか?」

「あァ。…患部に触らなきャならねェが、良いか?」

「良い。背に乗ってくれ。」

「…んじャあ、遠慮なく。」


アトラスが身を低くしたところに、ロードは身体強化魔法を使って飛び上がり、アトラスの背に乗った。

そのままロードは、翼が削られている断面に手を伸ばした。


「どうだ、ロード。治せそうか?」

「…あァ。いけそうだ。」

「本当か?」

「じャあ、やるぞ。」

「頼む。」


ロードは目を閉じると、翼に触れている手が光り始めた。


「おぉ…翼の感覚が戻って来ておる…!」


アトラスの翼の断面から肉や軟骨が生え、それが瞬く間に表皮で覆われ、徐々に片翼の形を取り戻して行った。


「…ッ!」


治療を続けていたロードが突然目を見開き、何かに驚いているような顔付きになった。

魔力が無くなりそう…なのか?


「ロード…あまり無理はするなよ。」


俺が心配して声をかける頃には、その顔付きは元に戻っていた。


「…いや…。まァ、今日は片翼が限界だな。もう片翼は明日になるが、良いか?」

「無論だ。これ程の治療魔法など見たことが無い。もしや、固有魔法か?」

「あァ。そうらしい。」

「それは素晴らしい力だ。ロードと言ったか。お主には大きな借りができた。ありがとう。」

「気にすんな…。よし、これで終わりだな。」


ロードの放つ光が収まると、アトラスの片翼は完全に復活していた。

アトラスは翼の感触を確かめるように、翼を動かしている。


「おぉ…やっぱり凄いな、ロード。」

「…どうッてことねェよ。」

「そうか。…さっき驚いてたように見えたけど、何かあったのか?」

「…。」

「ロード?」

「あァ〜…なんつゥか…。ちョッと思い出したんだよ。」

「何をだ?」

「…俺が初めてカリアに治癒魔法を使ッた時のことだ。アトラスの翼を治す感覚が、お前の腕を治した時の感覚と同じだった。…それに驚いただけだ。」

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