1章~白黒の番7
「お前がガイウスの妻…ミリィを殺したのか?」
「あぁそうだ。俺が殺した。」
「それは…どうしてだ。」
「バンデンさんが王になるためだ。」
「当時はガイウスが王位を継ぐことになっていたはずだ。どうしてガイウスじゃなくて、ミリィを殺すとバンデンが王になるんだ?」
「よく知ってんじゃねぇか。当時の国王陛下…ブライデ様は、ドラゴンとの共生を目指してたんだ。ガイウスと白竜の村の巫女を結婚させて、ガイウスを王に据え置くことで、その足掛かりにしようとしたんだと。」
「…それで?」
「確かにガイウスを殺した方が手っ取り早ぇ。だが、ガイウスは賢者の弟子になった人間だ。当時の俺がガイウスを殺すなんてのは無理な話だ。だから、ガイウスが国王になる理由を奪う方が簡単だったんだよ。」
「…その理由がミリィだったのか?」
「そうだ。竜の巫女を殺せば白竜との関係が拗れて、ドラゴンとの共生の道は潰える。その上、ガイウスが国王になる気力もなくなるんじゃねぇか…ってのが、バンデンさんの読みだったんだがな。結果は知っての通りだ。」
「…確かミリィ一行は、白竜の村へ行く途中で白竜に襲われて、全滅したんじゃなかったか?白竜に襲われたことを報告した兵も、死んだと聞いている。これはどういうことだ?」
「お前…全部知ってんのかよ。まぁ話が早くていい。ガイウスの嫁を白竜の村へ連れて行った時、護衛を4人付けてたんだが、そのうちの一人が俺で、もう一人がバンデンさんだったんだよ。」
「なるほどな。他の二人の兵もお前たちが殺ったんだな。」
「兵を殺したのも俺だ。バンデンさんは何も手ぇ出してねぇから、証拠も何もねぇよ。」
「そうか。…でもバンデンまで出向いていたのは意外だな。」
「…俺が本当に人を殺せるかどうか、確認しに来たんだろうな。親以外の人間を殺すのは、それが初めてだったからな。」
バンデンは、トールに汚れ役を任せることができるかどうか、品定めしたということか。
「全員殺した後は、大けがを偽装したお前がナイト王国に戻って嘘の情報を流した。白竜がミリィを殺したという嘘にしたのは、ドラゴンとの共生を絶つ溝を深くするためだな。」
「ご名答。どうだ?今の話を国に持ち帰っても、バンデンさんは白を切るだけで逃げ切るだろうぜ。」
「…確かに。証拠を見つけるのは難しそうだ。」
「バンデンさんが何かするまで待つしかねぇよ。…そん時は証拠集めを手伝うからよ…俺を殺すのはまだ待ってくれねぇか。」
「お前も一緒に罪を償うつもりなんだろ。そんな人間を殺すはずがないだろう。」
「…懐が深ぇな。」
「とは言え、バンデンがまた何かをしでかすまで待つというのは最終手段だな。現状で証拠を揃えた方が被害は出ない。」
「そりゃあそうだがよ…。」
「まぁ、そっちはそっちで探してみて欲しい。何か見つけたら、俺に教えてくれ。俺も確実な証拠を見つけるまでは、今の話は誰にも言わない。」
「…わかった。」
「話は終わりだ。お前は国に戻れ。」
「あぁ…。カリア、って言ったか。」
「そうだけど。」
「…ありがとよ。一回りくらい年下のガキに諭されるとは思わなかったぜ。お前、本当に坊ちゃんと同い年か?」
アスベストも16歳だったのか…要らない情報を聞いてしまった。
「それ、耳にたこができるくらい聞いたよ。」
「…はっは!そりゃあ仕方ねぇってもんだ。」
そう言い残し、トールは来た道を歩いて帰って行った。
俺もセラフィたちと合流しよう。
アリウスとグレースはまだ馬車に乗っているようだ。
「お帰り。」
「ただいま。皆怪我はないか?」
「うん。アリウスもグレースも怪我は無い。二人とも、出てきていいよ。」
「…流石賢者のお弟子様だぜ…。馬車の窓からチラッと見てたが、すげぇ魔法使ってたなぁ。」
「ほんとに凄かった!セラフィしか見えなかったけど、カッコよかったよ!」
「ありがと。」
「でも、その後はしばらく静かだったよね?何かしてたの?」
「あぁ、ちょっと後始末をしてただけだ。」
「…うん。時間かかっちゃってごめんね。」
セラフィには話し込んでいるのを見られているが、話を合わせてくれてありがたい。
「全然いいのよ。二人ともお疲れだと思うし、もう少し休憩する?」
「いや、出発できるならした方がいい。日が暮れる前に、目的の村に着いて置きたいんだよな?」
「あぁ…できればそうしたいが、お二人さん大丈夫かい?」
「俺は大丈夫だ。そんなに疲れてない。」
「私も大丈夫。」
「わかった。そんじゃ、準備してすぐ出発するぞ。」
グレースは木に繋いであった馬の状態を軽く確認して、馬車を出発させる準備を手早く済ませた。
「全員乗ったな?出発するぞ。」
グレースは俺たちが馬車に乗ったことを確認し、馬車を進めた。
「ねぇセラフィ。さっき賊が襲ってきた時ね、私も馬車の周りだけでも魔法障壁を張ろうと思ったんだけど…使えなかったの。緊張しちゃってたのかな?」
「…カリア。」
セラフィは俺に、この話をする判断を任せるらしい。
「…アリウス、それは緊張で使えなかったわけじゃない。賊が魔法を封じる魔道具を持っていたんだ。実際、俺とセラフィも魔法は使えなかった。」
「そんな魔道具が…?あれ、でも魔法使ってなかった?」
「あれは固有魔法なんだ。魔法を封じる魔道具は、固有魔法まで封じることはできないらしい。」
「え…?セラフィって固有魔法が使えるの?」
「カリアも使えるよ。」
「えぇ〜…初めて知ったんだけど?」
「初めて言ったからな。」
「そうじゃなくて!なんで隠してたの?」
「固有魔法が使えることを言い触らすのはあまり良くないだろ。」
「それは…そうだけど。」
それに、俺たちの咆哮魔法を知っている人間が居ないとも限らない。今回は緊急のため使ったが、あまり多用するのは避けたいところだ。
「…私結構二人のこと知ってると思ってたんだけどな。他にも隠してることあるんじゃないでしょうね?」
「さぁ…どうだろうな。」
俺は視線を逸らしながらそう答えた。
「セラフィは?」
「さぁ…どうだろうね。」
セラフィも視線を逸らしながらそう答えた。
「二人とも絶対隠してることあるじゃない!」
「はっはっは!アリウス様、気持ちはわかりますがね。人間ってのは、墓場まで持って行くと決めた秘め事の一つや二つあるもんですぜ。」
「別に墓まで持って行こうとは思ってない。」
「…じゃあやっぱりあるんだ?隠しごと。」
「…確かに、俺たちは隠してることがある。でもいつかは話そうと思ってるから、その時が来るまで待ってくれ。ロードとラピスにも話したいから、また皆で集まった時だな。」
「…ふ〜ん。二人の共通の隠しごとなんだ?…結婚するなら早く言えばいいのに。」
「待て何でそうなる。もしそうだったら隠さずに言ってるぞ。」
「ほんとかなぁ。」
「…なんだか、ロードにも似たようなこと言われたな。」
ラピスは窓の外を見て我関せずといった様子だ。
それから俺たちは雑談をしながら馬車に揺られ、目的の村へと向かった。
しばらく経ち、日も暮れ始めた頃、グレースから声がかかった。
「御三方、村が見えて来たぜ。」
「日が暮れる前に着けそうだな。あれから結局休んでないけど、大丈夫か?」
「あぁ、このくらいできねぇと御者は務まらねぇよ。」
「助かる。」
目的の村に近づいて来ると、村の見張りと思われる人間がグレースに声をかけて来た。
「そこのお方、目的地を伺っても?」
「あぁ、お前さんたちの村に用があって来たんだ。」
「それはまた珍しいお客様だ。ここの道を通る人は、道を間違えて来られる方が多いのです。あなたも類に漏れずそうかと思い、お尋ねした次第です。」
「ご丁寧にありがとな。村で馬を休ませたいんだが、入ってもいいのかい?」
「一応、具体的な要件を伺ってもよろしいでしょうか。」
「後ろの馬車に乗ってるお客さんが、白竜の村に用があるってことで、近くまで連れてきたのさ。」
「…白竜の村に…そうですか。ちなみに、どちらからお越しで?」
「ナイト王国からだ。」
「…お客人を確認してもよろしいでしょうか。」
「あぁ。御三方、いいよな?」
「うん。」
「それでは、扉を開けさせていただきます。」
扉が開くと、顔のシワが目立つ歳の割には体格がしっかりした男が顔を覗かせてきた。普段から身体を鍛えていると見える。
その男は、アリウスを確認すると目を見開き、少し動きが停止した。
それを見兼ねたアリウスが話しかけた。
「…あの、どうかされましたか?」
「え…あぁいえ。申し訳ございません。こちらの3名と御者様ですね。…少し、村長に確認を取って参りますので、村の入口でお待ち下さい。」
そう言うと、男は扉を閉めてから、走って村に戻って行った。
「…とりあえず、村の前まで馬車を進めるぞ。」
「わかった。」
「なんか…私に見惚れてたのかな。」
「そんな感じじゃなかったと思うけど。」
「むぅー。」
「無事に村に入れるか不安だな。あの男、明らかにアリウスを知っているような反応だったぞ。」
「えぇ〜…。私ってそんなに有名じゃないと思うんだけど…。」
馬車が村の前に着き、しばらくすると先程の男が走って戻って来た。
「おまたせ致しました。村長のところへ案内致しますので、お入りください。」
「お…おぉ、わかった。」
「とりあえず入れそうで良かったな。」
「あぁ…だが変だな。ここに来たことある奴の話は聞いてるが、俺たちへの対応がそれと違いすぎる。」
「…少し警戒した方が良いみたいだな。」
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