1章〜賢者の館17

俺たちは図書室で、職業一覧の本を見ていた。




「カリア?ねぇ聞いてる?」


「…ん?あぁごめん、聞いてなかった。」


「次は薬師だって。治癒魔法を使わずに、怪我や病気を治す薬を作る職業。」


「治癒魔法以外にも、怪我や病気を治す手段があるのか。興味はある。」


「じゃあこれも駄目ね。」


「判断が早いな、ラピス。」


「お前さッきから同じ反応してるが、決まらねェじャねェかよ。」


「決まらないのは仕方ないだろ。明日の面談までに、何かやりたいことを見つけたいんだ。」


「シスターアルマから面談までに何かやりてェことを考えとくように言われたが、そんな無理して見つけなくてもいいんじャねェか?」


「無理しているように見えるか?」


「見えるな。」


「…じゃあ、これを続けても意味がなさそうだな。」


「カリアって何でもできそうなのに、どうして何もやりたいことがないのよ。」


「俺からしてみれば、やりたいことを持っているお前たちがわからない。」


「今まで楽しかッたこととかねェのかよ。」


「お前たちと過ごした時間は楽しかったな。」


「そういうこと言ッてんじャねェよ。例えば俺は料理を作るのが楽しいから、料理屋を商うんだ。」


「私は工作が好きだから、ロードの料理屋を手伝いながら、食器とか料理道具を作るわ。そのうち自分で家も作りたいわね!」




ロードとラピスは火傷の一件以来、本当に仲良くなったように見える。


しかし卒業後は二人で料理屋を商うと聞いたときは驚いた。




「セラフィにもやりたいことがあるんだよな?」


「うん。でも秘密。」




相も変わらず、教えてくれないらしい。




「わからないなぁ…どうして俺にはそういうのが無いんだ。」


「考えすぎると、逆にわからなくなるものよ。」


「…それもそうだな。もうこんな時間だし、諦めて寝るよ。皆、付き合ってくれてありがとう。」


「結局何にも見つかんなかッたけどな。」


「それは仕方ない。セラフィの言う通り、考えすぎたのかもしれない。明日賢者ヒスイと会って話せば、何か見えてくるかもしれないしな。この本は俺が返してくるから、皆は先に部屋に戻ってていいぞ。」


「…そうか。じャあ、俺は部屋に戻る。」


「うん、おやすみ。」


「私も部屋に戻るわ。おやすみ。」


「おやすみ。」




ロードとラピスは図書室から出て行った。




「セラフィも戻ってていいぞ。」


「私も一緒に行く。」


「…そうか。」




俺とセラフィはシスターメイルに本を返しに行った。




「シスターメイル、遅くまですまない。これ、返却する。」


「あぁ、別にいいのよ。やりたいことは見つかった?」


「いや、ダメだった。」


「そう。まぁそんなに血眼になって探さなくてもいいわよ。カリアと同じような子は珍しくないもの。」


「…そうなのか?」


「そうよ。私にもそういう相談をして来る子が居たけど、私が言うことは決まってるの。」


「…聞かせてほしい。」


「やりたいことっていうのは、見つけるものじゃないくて、自分の中で自然と湧いてくるものなの。だから肩の力を抜きなさい。」


「…確かに、そうかもしれない。ありがとう、シスターメイル。」


「えぇ。もう寝た方がいいわ。明日は面談でしょ。」


「うん、おやすみ。」


「おやすみ。セラフィもおやすみ。」


「おやすみなさい。」




俺たちは図書室から出た。




「なぁセラフィ。」


「何?」


「ちょっと俺の部屋で話さないか?」


「いいよ。元々そのつもりだったし。」


「そうか。…え?」




俺はセラフィに話したいことがあって誘ったが、セラフィも俺に話があるみたいだ。


俺は部屋にセラフィを入れた。




「俺から話してもいいか?」


「うん。」


「さっきシスターメイルから言われて、少し考えたんだ。」


「やりたいことは見つけるものじゃないって話ね。」


「うん。それを聞いてやりたいことが湧いて出たわけじゃないけど、ちょっと考え方を変えたんだ。」


「考え方を変えた?」


「俺の中にはやりたいことはあるけど、まだそれが何かわからないだけなんじゃないかって。」


「だから今までそれを探してたんでしょ?」


「そうだ。それが俺の…今の俺がやりたいことなんだ。」


「やりたいことを見つけることが、今のカリアがやりたいこと?」


「そういうことだ。そのために俺は、もっと色んなことを知りたい。世界中を旅して、色んな人と話したい。それができる職業が、一つだけある。」


「…賢者の弟子。」


「あぁ、国王ガイウスがそんな事を言っていたからな。俺は、賢者の弟子になろうと思う。」


「そう。いいと思う。」


「それで…だな、セラフィも一緒にどうだ?セラフィがやりたいこととは違うかもしれないが…。」


「私も賢者の弟子に?…どうして?」


「まぁ、気になるよな…。えぇっと…なんて言うか…セラフィが一緒に居ないと、調子が狂うって言うか…。」


「私と一緒がいいの?」


「…そうだ。」


「…いいよ。一緒について行ってあげる。」




セラフィは笑顔で快諾してくれた。




「ありがとう。…でもいいのか?セラフィもやりたいことがあったんじゃないか?」


「うん。それは大丈夫だから。」




そう言って、セラフィは俺の部屋から出ていこうとした。




「あれ?セラフィも何か話があるんじゃなかったのか?」


「うん。あったけど、聞きたいことは聞けた。おやすみ、カリア。」


「あ…あぁ、おやすみ。」




結局、セラフィは何がしたかったのかわからなかったが、これで心置き無く明日を迎えることができそうだ。






次の日。


俺たちはシスターアルマの部屋に集められた。




「皆さん集まりましたね。御館様はもういらっしゃってます。順番に一人ずつ面談しますので、まずはロードから御館様の部屋に行きましょう。」


「俺からかよ。」


「行ってらっしゃい、ロード。」


「あァ。行ッてくる。」




ロードはシスターアルマに連れられて、部屋を出た。




「もうすぐこの館から卒業ね。」


「そうね。」


「…いつか、私たちのお店に来てくれる?」


「うん。ラピスとロードに会いに行く。ついでにご飯も食べる。」


「ロードの作るご飯をタダで食べれなくなるのか…。値段はあまり高くしないでくれよ?」


「カリアとセラフィは友達料金で安くしといてあげる!」


「それはありがたいな。どこで商うか決まったら教えてくれ。俺たちが色んな所で宣伝しておくよ。」


「え、二人とも何するか決まったの?」


「あぁ、うん。言っていいよな?セラフィ。」


「うん。私たち、賢者の弟子になることにしたの。」


「良かったねセラフィ!二人ならきっとなれるわよ!」


「セラフィが良かった…って何がだ?」


「あっ…ううん!なんでもないわ!」




何でもないなんてことは無いだろう。


問い詰めようとしたが、タイミング悪く扉がノックされた。シスターアルマが来たようだ。




「ロードの面談が終わったので、次はラピスの面談をします。ついてきてください。」




シスターアルマは扉を開けて、ラピスを呼んだ。


体感だが10分程で面談は終わったようだ。早かったな。




「じゃあ、行ってくるわね!」


「うん、行ってらっしゃい。」




ラピスはシスターアルマに連れられて行った。


ロードはここには戻ってこないようだ。




「さっきの良かったねって、何のことだ?」


「…さぁ?何のこと?」


「ラピスはお前のやりたいことを知ってたのか?」


「…さぁ?何のこと?」


「セラフィお前…惚けるの下手だな。」




特に重要なことでも無さそうだし、話したくないのであれば無理に聞くこともないか。


俺たちはそれから40分程待ったが、ラピスの面談はまだ終わらないようだ。




「ラピスの面談、長引いてるみたいだな。」


「ラピスは話すのが好きだから、賢者ヒスイとの雑談を楽しんでるのかも。」


「ありえるな。」




ちょうどその時扉がノックされ、シスターアルマが現れた。




「お待たせしました。ラピスの面談が終わりました。カリア、セラフィ、今回は二人一緒に面談をするそうです。ついてきてください。」




賢者ヒスイは、俺たちが特異であることを知っているはずだ。今回の二人同時の面談には、それが関係しているのかもしれない。




「ラピスの面談、ちょっと長かったですね。」


「えぇ、いつもならロードの面談にかかった時間くらいで終わるのですが、ラピスは特に長かったですね。」


「雑談が盛り上がったのかな。」


「そうかもしれませんね。…さぁ、着きました。中に御館様がいらっしゃいます。私は中には入れないので、二人で入って下さい。」




遂に賢者ヒスイとご対面だ。


俺は不安と興奮が入り交じったような感情を押し殺しながら、扉をノックした。




「どうぞ。」




中から賢者ヒスイと思われる声が応えた。


俺とセラフィは扉を開けて、部屋の中に入った。

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