斯くてドラゴンは人になる
冫メ况。
プロローグ1
目が覚めた。
切り立った崖にできた洞窟で雨宿りしていたが、寝てしまっていたようだ。
起きて外に出てみると、土が乾いていた。
雨はかなり前に止んでいたらしい。
「…ん?」
頭上から風を切る音が聞こえる。
何かが落ちてきているな、と見上げると、人間が落ちて来ているのが見えた。
気を失っているのか頭から落下しており、身動きのひとつも無い。
このままでは頭から地面に直撃して即死だろう。
俺は風魔法を使い、人間の落下速度を低下させて安全に着地させた。
少しして、人間は気を取り戻した。
「あれ…?生きてる…。」
「人間。」
「っ!!」
俺が声をかけると、人間の少年は俺の存在に気づき、驚いた表情を浮かべた。
当然だ。俺は赤い鱗を身に纏ったドラゴンなのだ。
普通の人間からすれば、ドラゴンは畏怖の対象である。
この人間も、ドラゴンの恐ろしさは伝え聞かされているだろう。
「安心しろ。取って食ったりはしない。時間をやるから落ち着け。」
「…は、はい。」
怯えた様子ではあるが、言葉を理解できるくらいには正気を保っているようだ。
少しして、少年から声が掛かった。
「あのっ…もしかして、助けてくれたのですか...?」
「まぁ、そうだ。怪我はないか?」
「はい...大丈夫です。ありがとうございます。」
こうして人間と話す機会は貴重だ。
もう少し、話し相手になってもらおう。
「なぜ崖上から落ちた?」
「えっ…と…その…綺麗な鳥が居たんです。捕まえようとして、夢中で追いかけてたら…そのまま落ちてしまいました。」
「ほぉ、それほど鳥が綺麗だったのか?」
「...僕は昔から鳥が大好きで...。今日見つけた鳥は今まで見たことがない鳥で、どうしても捕まえたかったんです。普段は罠を作って、怪我をさせないように捕らえて飼育したりしてるんですけど、今日見つけた鳥は全然罠に掛からなくて──────」
少年は今までの怯えた様子とは打って変わり、楽しそうに話している。
それほど鳥が好きなのだろう。
ふと、少し離れたところで飛んでいる鳥を見る。
俺に鳥を綺麗だと思う感性は無い。
「鳥の何が綺麗だと感じる?」
「そうですね...羽の色が綺麗な鳥もいますし、そうでなくても頭の形や翼を畳んでいる時の姿を見るだけでも綺麗だと思います。餌をくちばしで摘んでいる時の仕草とか可愛いですし、人間慣れしてる鳥と触れ合えた時は最高で…細かい部分を挙げるとキリがないですね。」
人間は楽しそうにそう語った。
「羨ましいな。」
「え?」
「生きるのが楽しそうだ。」
「そ…そうですか?僕はドラゴンさんの方が羨ましいと思いますが…。」
「なぜだ?」
「自由だから、ですね。」
しがらみが多い人間から見れば、そう思うのか。
「そうか。それで、少年。上に戻らなくても大丈夫か?ここから住処に戻るのは厳しいだろう。」
「そうですね…夢中で追いかけていたので、かなり遠くまで来たかもしれません。でも、何とかして帰ってみます。助けて頂いて、ありがとうございました!」
そう言って少年は立ち去ろうとする。
「待て。俺が上まで送ろう。」
「えっ…良いのですか?」
「俺が提案してるのだ。良いに決まってる。」
では、お言葉に甘えてと言う少年を手に乗せる。
「飛ぶぞ。」
「はい、お願いします。」
翼を広げて風魔法を使い、空を飛ぶ。
少年を風から守るようにして崖上を目指す。
程なくして崖上にたどり着いた。
「ここでいいか?」
「はい!ありがとうございます!」
俺は崖上には降り立たず、飛んだまま少年と目線を合わせた。
そろそろ、ここを去ろう。
近くに人里があるならあまり近づかない方が良い。
「次は落ちないように気をつけろ。」
「あはは…気を付けます。」
「うん。ではな。」
俺はその場を去った。
人間と別れた後、俺を追って来ている存在に気づき、すぐ下の森中に降り立った。
俺を追って来たそいつは───青いドラゴンは俺の前に降り立った。
降り立つや否や、青いドラゴンは話しかけてきた。
「どうして人間を助けるの?」
「なんだ、見ていたのか。」
「うん。」
この青竜とは何かと縁がある。
この世界にドラゴンは10もいないそうだが、この青竜とは接触する機会が多い。
そして会う度に、このように色々と聞かれる。
「人間と話しがしたかったからだ。」
「どんな話?」
「特に聞きたいことがあった訳では無い。世間話と言うやつだ。」
「どうして世間話がしたかったの?」
どうして、か。
理由はあるが、話すと笑われそうだ。
「ただ話したかっただけだ。」
「…そう。」
「それが聞きたいだけで、俺を追ってきたわけではないだろう?」
「うん。あなたには伝えておくべきだと思って。」
「なんの事だ?」
「黒竜が人間を滅ぼすと言っていた。」
「…黒竜か。確かなのか?」
黒竜は人間に興味がなかったはずだが、何かあったのか?
「うん。昨日話した。多分もうすぐ行動に移す。」
「...そうか。」
俺にとっては好都合だ。
「黒竜を止める?」
「あぁ、そのつもりだ。」
「世界最強のドラゴンに勝てるの?」
そう。黒竜は世界最強と言われているドラゴンだ。
それは噂などではなく、実際世界最強だろう。
勝てる気はしないが、勝ちに行くわけではない。
「勝てなくとも、人間を滅ぼすのを断念させればいい。」
「…死にに行くつもりなの?」
「…。」
「どうして死にに行くの?」
無言を肯定と解釈したのか、青竜に問いただされる。
...もう言ってしまっても良いか。
「笑わずに聞いてくれ。」
「内容による。」
「...少し前に、人間の魔法使いと会って話をした。そこで俺はある魔法を教わった。」
「死にに行く理由と関係あるの?」
「まぁ聞け。」
逸る青竜を宥めて話を続ける。
「俺が教わった魔法は、人間に転生する魔法だ。この魔法は死に瀕しているほど成功率が高くなるらしい。」
「命と引き替えに人間を守り、あなたは人間に転生したい。そういうこと?」
「そうだ。」
「…どうして人間になりたいの?」
「…お前は人間を羨ましいと思った事はあるか。」
「ない。」
「俺はある。人間と言葉を交わす度にそう思うのだ。俺は…その羨ましさの正体を知りたい。
そして願わくば、手に入れたい。」
「…。」
青竜は何か考えているようだ。
俺は黒竜の元へ向かおう。昨日話したと言っていたから、もう行動に移しているかもしれない。
俺は飛び立とうとしたが、呼び止められた。
「待って。私も行く。」
「…お前も死ぬつもりか?」
「そもそもあなたは黒竜の位置がわからない。」
まぁ、確かに。
俺は魔力感知に疎いが、青竜は非常に長けている。
その上、純粋に魔法の扱いに関しても優れている。知らない魔法も、見ただけで扱うことができる程だ。
「案内してくれるということか?ありがたいが、その後はどうするつもりだ?」
「…道中考える。」
「…わかった。案内を頼む。」
俺と青竜は飛び立ち、黒竜の元へ向かった。
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