白黒の番2

次の日の朝。俺は庭に来ていた。


魔法の練習をしに来たわけではなく、ロードと話がしたかったのだ。




「…よォカリア。早ェな。」


「おはようロード。お前も相変わらず早いな。」


「セラフィとここで待ち合わせか?今日から国の依頼で出るんだろ?」


「いや、ロードと話したいことがあって来たんだ。」


「何だよ改まッて、気持ち悪ィ。」


「昨日、国王ガイウスと話をして思い出したんだ。ユーベルトとオリファーのことは覚えてるか?」


「あァ…?身体が成長してなかッた、みたいな話をしてたやつだよな?」


「そう、まさにその話だ。結局理由はわからないままなんだけど、ロードはどうしてだと思う?」


「んなことわかるわけねェだろ。」


「正解が欲しいわけじゃない。ロードがどう考えるのか気になったんだ。」


「…そういう魔法を使ッたとしか考えられねェな。」


「まぁ、そうだよな。」


「お前はどう考えてんだ。」


「…ユーベルトとオリファーは、そういう人種だったんじゃないかな。」


「人種?」


「あぁ。普通の人間よりも長寿で、身体の成長がかなり遅い人種だ。」


「本の読み過ぎだな。」


「はは。確かに、そういう空想の存在が登場する物語もあるな。」


「お前そういうの好きだろ。」


「そうかもな。…ロード。もしもの話だけど、俺がそういう存在だったらどうする?」


「あァ?どうするも何も、納得する他ねェな。」


「え?納得?」


「いつも言ッてんだろ、お前と…あとセラフィもだが、俺たちと同い歳とは思えねェんだよ。お前はいッつもはぐらかしてるけどよ、実は中身が100歳だッて言われた方が納得すんだよ。」


「…俺ってそんなにおじいさんなのか。」


「外見だけ見れば、確かに俺と同じくらいだがな。」


「…ロードは、納得した後はどうするんだ?」


「はァ?どういうことだ。」


「例えば俺が本当に人外だったとしたら、ロードは今まで通り俺と話すことができるか?」


「…逆に俺がそうだッたら、お前はどうすんだ?」




いつか俺がドラゴンだということを打ち明けた時、拒絶されないかどうかを確認したかったが、逆に聞き返されてしまった。




「…変わらないかな。ロードはロードだ。例えそうだったとしても、ロードが料理屋を開いたら俺は絶対に食べに行くし、ラピスと結婚したら祝いに行く。」


「…じャあ、俺もそうすんだろうな。お前がセラフィと結婚したら、渾身の料理作ッて祝ッてやんよ。」




ロードがそう言ってくれて安心材料は一つ増えたが、正体を明かす勇気はまだ湧いて来ない。


ユーベルトとオリファーも俺の予想が当たっていれば、ガイウスに嫌われたくなくて正体を隠したのかもしれないな。




「セラフィとはそういう関係じゃないぞ。」


「はッ。」




ロードが俺の言葉を笑い飛ばすと、後ろから声をかけられた。




「おーい!二人ともおはよう!」


「おはよう。ラピス…何をしてるんだ?」




ラピスが布を広げて掲げ、ラピスの背後の景色を遮りながら、俺たちの方に歩いてきた。




「後ろにセラフィが居るのはわかるぞ。」


「あぁそっか、セラフィの魔力だけは感知できるのよね、カリアって。」


「あぁ。それで何やってるんだ?」


「んふふ。セラフィの新しい召し物のお披露目よ!」




そう言って、ラピスは広げていた布を降ろしてその場から少し横に移動し、後ろに隠していたセラフィを披露した。




「おぉ…。」




セラフィは修道服のようなものを着ていた。


ただ、シスターアルマたちが着ている服とは少し違うようだ。




「カリア、感想それだけ?」


「…あぁいや、なんだか新鮮だと思って。シスターアルマたちが着ているのとはちょっと違うな?ロングスカートにスリットが入ってて、可愛さとカッコ良さがいい具合に合わさってる。良く似合ってるよ、セラフィ。」


「…ありがと。」


「その服装で旅に出るのか?」


「うん。ずっと前から着てみたいと思ってたから。」


「創造神の信徒になりたいわけじゃないんだな。」


「それは興味無い。服装が好きなだけ。シスターアルマにお願いしたら、動きやすいように仕立て直してくれたの。」


「確かに動きやすそうだ。出立の準備はもうできてるか?」


「うん。でも出る前に、館でお世話になった人に挨拶したい。」


「じゃあ一緒に挨拶しに行こうか。」


「うん。」


「二人とも、行ってらっしゃい。」


「早く帰ッて来いよ。」


「寂しいのか?ロード。」


「なッ…早く店を開きてェだけだ!」


「はいはい。できるだけ早く終わらせるようにするよ。それじゃあ行ってくる。」




俺とセラフィは二人と別れた後、館で世話になった人たちに挨拶をして回った。




「二人とも、もう行ってしまうのですね。」


「うん。とは言っても、依頼が終わったらちょっとだけ戻ってくるけど。シスターアルマ、今まで面倒を見てくれてありがとう。」


「シスターアルマ、今までありがとう。この服も、凄く気に入った。」


「それは良かったです。サイズが合わなくなったらまた仕立て直すので、たまには館に寄って下さいね。」


「うん、わかった。」


「そうそう。御館様からこれを預かっております。どうぞ。」




そう言ってシスターアルマから、路銀と十字架のペンダントを渡された。




「助かるよ。ペンダントはシスターアルマが持っているのと少し似てるな。」


「えぇ。それに魔力を流すと、御館様に連絡できるようになってます。私が持っているものとは少し違いますが、特に問題は無いと思います。」


「なるほど。」


「村の調査が終わったら、連絡が欲しいとのことです。」


「わかった。…じゃあ、行ってきます。」


「行ってきます。」


「はい。気を付けて行ってらっしゃい。」




俺たちは館の外までシスターアルマに見送られた。


これからは本当に俺たちだけで行動することになる。ただ外に出るだけなのに、どうしてこんなにも楽しいと思えるのだろうか。




「カリア、ちょっと笑ってる?」


「え?あぁ顔に出てたか。俺たちだけで外に出るのは初めてだろ?楽しみで仕方ないんだ。」


「子どもみたい。」


「セラフィだって、ちょっとは楽しみにしてるんじゃないか?」


「…まぁね。」




旅のために服を新調する程だ。楽しみでないわけが無い。




「それじゃあ先ずは、御者を探そう。この国の関所辺りに御者が駐在してるから、そこに行こうか。」


「うん。」




そうして、俺とセラフィは外壁近くの関所へと向かった。




「確かこの辺に…あった。」


「来たことあるの?」


「あぁ。前にシスターアルマと買い出しに行った時に見せてもらったんだ。横に馬小屋もあるし、間違いない。」




俺たちは『旅馬』と書かれた建物に入った。


中は円形の机と椅子があり、食べ飲みしている人がちらほらと居た。飲食店も兼業しているようだ。


俺たちはカウンターの店員と思われる男のところへ行き、話しかけた。




「すまない。馬車と御者を探してるんだけど、ここで受け付けできるのか?」


「あぁ、ここが受付だ。あんたここは初めてか?」


「初めてだ。」


「じゃあとりあえず、行き先と人数を教えてくれ。」




受付の男は地図を出してきた。




「…多分ここか?行き先は白竜の村なんだ。」


「あぁ〜。白竜の村か…。確かいつもの道は使えねぇんだよなぁ。…ちょっと道の確認してくるから、待っててくれ。あと、人数は?」


「俺とこいつの2人だ。」


「わかった。ちょっと待ってろ。」




そう言って、受付の男は奥に消えていった。




「シスターアルマの杞憂が当たったのかもな。」


「うん。ちょっと遅くなっちゃいそう。」


「こればかりは仕方ないな。」


「…。」


「セラフィ?」




話をしていると、セラフィの顔が急に曇った。


体調が悪くなったのかと思った瞬間、『旅馬』に誰かが入ってきた。


そちらに視線を移すと、セラフィの顔が曇った原因をすぐに理解した。




「おやおや、こんなところでお会いできるとは。偶然ですね、セラフィさん。」




そこには、護衛を侍らせたアスベストが居た。


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